Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

特別プログラム・技を究める 腹部エコー
腹部エコー3 技を究める~消化管~

(S502)

見落とし症例からみた系統的走査の注意点とは?

Pitfalls in US screening of the gastrointestinal tract:review of the overlooked lesions

谷口 真由美, 畠 二郎, 竹之内 陽子, 岩崎 隆一, 妹尾 顕祐, 山根 愛美, 窪津 郁美, 中藤 流以, 今村 祐志, 眞部 紀明

Mayumi TANIGUCHI, Jiro HATA, Yoko TAKENOUCHI, Ryuichi IWASAKI, Kensuke SENO, Ami YAMANE, Ikumi KUBOTSU, Rui NAKATOU, Hiroshi IMAMURA, Noriaki MANABE

1川崎医科大学附属病院中央検査部, 2川崎医科大学検査診断学(内視鏡・超音波), 3川崎医科大学消化管内科学

1Department of Clinical Laboratory, Kawasaki Medical School Hospital, 2Division of Endoscopy and Ultrasound, Department of Clinical Pathology and Laboratory Medicine, Kawasaki Medical School, 3Division of Gastroenterology, Department of Internal Medicine, Kawasaki Medical School

キーワード :

【はじめに】
系統的走査は消化管をもれなく観察できるスクリーニング法であるが,この走査法を用いてもなお見落としは存在する.
【目的】
体外式超音波検査における消化管病変の部位別見落とし率から系統的走査上の原因および対策について検討する.
【対象】
2015年1月から2016年12月に先行して施行された体外式超音波検査で病変を指摘できず,その後,上下部消化管内視鏡検査にて病変が指摘された計30例(超音波検査から内視鏡検査までの期間:胃潰瘍,十二指腸潰瘍は1か月以内,進行胃癌,大腸癌は6か月以内).
【検討項目】
胃潰瘍,十二指腸潰瘍,進行胃癌,進行大腸癌の見落とし率(疾患別,部位別).
【結果】
1.胃潰瘍の見落とし率28.0%(7/25).部位別見落とし率は胃体上部小彎0%(0/3),胃体中部小彎20.0%(1/5),胃体下部小彎50.0%(2/4),胃角部小彎37.5%(3/8),胃角部大彎0%(0/1),幽門前庭部前壁0%(0/3),幽門前庭部後壁100%(1/1).
2.十二指腸潰瘍の見落とし率25.0%(6/24).部位別見落とし率は球部前壁20.0%(4/20),球部後壁100%(2/2),下行部0%(0/2).
3.進行胃癌の見落とし率25.9%(7/27).部位別見落とし率は胃食道接合部0%(0/1)噴門部16.7%(1/6),胃体上部75.0%(3/4),胃体中部100%(2/2),胃体下部0%(0/3),胃体部全体0%(0/2),胃角部0%(0/3),幽門前庭部16.7%(1/6).
4.進行大腸癌の見落とし率24.4%(10/41).部位別見落とし率は盲腸25.0%(1/4),上行結腸14.3%(1/7),横行結腸16.7%(1/6),下行結腸0%(0/3),S状結腸8.3%(1/12),直腸66.7%(6/9).
【考察】
1.胃潰瘍:好発部位である胃体下部から胃角部の小彎側の見落としは,小彎側の潰瘍が走査線と平行に存在するため前後壁の潰瘍に比し認識しづらいことが原因と考えられた.体位変換によるガスの移動,屈曲部を深吸気や飲水で十分伸展させて観察する工夫が必要と思われる.
2.十二指腸潰瘍:球部が深い場合は見落とされており,深吸気や左側臥位により伸展させかつ体表近くに移動させる必要がある.また,球部後壁の潰瘍は撮像されていても指摘できておらず,好発部位以外の意識不足が原因と考えられた.
3.進行胃癌:胃体中部の見落とし病変は後壁にあり,ガスが妨害因子となっていた.胃体上部病変の見落としは,肝左葉の萎縮や変形,胃体上部が左外側寄りに位置するなど,肝左葉が音響窓として機能していなかったことが原因と考えられた.体位変換や飲水で音響窓を確保することにより改善が期待できる.
4.進行大腸癌:直腸はRs,Ra病変の見落とし率が高かった.Rsの病変はガスの影響,Raの病変は最も深く,かつ排尿後で音響窓が得られなかったことが原因と考えられた.体位変換,入射角度,膀胱を充満させるなどの工夫に加え,ガスの排除や深部病変の描出には圧迫が最も有用な手段と思われる.
【まとめ】
各疾患の見落としをしやすい部位に傾向が見られた.見落としの原因は複数の要因が関係していることが多く,解剖や病変の見え方に関する知識不足や経験不足も当然見落としの要因となる.系統的走査がアーチファクトや妨害因子の多い消化管をスクリーニングする精度の高い走査法であるためには,漫然と走査するのではなく,見えている部位と見えていない部位を認識し,見えていない部位を観察するために必要な工夫は何なのかを判断しながら走査することが重要と思われた.