Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

一度このページでloginされますと,Springerサイト
にて英文誌のFull textを閲覧することができます.

cover

2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

特別プログラム・知を究める 運動器
パネルディスカッション 運動器1 先への一歩~超音波ガイド下注射~

(S475)

腰臀部痛に対するハイドロリリースの実際

Ultrasound guided hydrorelease for low back and buttock pain

皆川 洋至

Hiroshi MINAGAWA

医療法人城東整形外科

Joto Orthopedic Clinic

キーワード :

腰臀部痛は外来診療で診る機会が最も多い愁訴である.痛みの原因が椎間板・椎間関節・脊柱起立筋・仙腸関節など多岐にわたり,治療は内服薬の全身投与に依存する傾向が強かった.しかし,患者が訴える痛みが臀部から大腿後面,下肢に広がる場合,治療の標的は坐骨神経・後大腿皮神経に絞られてくる.神経障害を引き起こす原因は,これまで脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアなどの脊柱管内病変に偏りがちであったが,脊柱管外の末梢神経障害も決して少なくないことが分かってきた.臀部・大腿痛を訴える患者の診療では,脊柱管内ばかりでなく脊柱管外病変の存在を常に念頭に入れる必要がある.
【臀部の末梢神経解剖】
仙棘靭帯と仙骨外縁・仙腸関節下縁・大坐骨切痕に囲まれたトンネルを大坐骨孔greater sciatic foramen,仙結節靭帯と仙棘靭帯・小坐骨切痕に囲まれたトンネルを小坐骨孔lesser sciatic foramenと呼ぶ.大坐骨孔を梨状筋,小坐骨孔を内閉鎖筋が通過する.梨状筋と共に大坐骨孔を4つの神経が通過する.骨盤腔内から梨状筋の上を通過し骨盤腔外に出てくるのが上殿神経,梨状筋の下を通過し骨盤腔外に出てくるのが下殿神経・後大腿皮神経・坐骨神経である.上殿神経は上殿動脈・静脈とともに中殿筋と小殿筋の間を走行し,大腿筋膜張筋に至る.中殿筋・小殿筋・大腿筋膜張筋を支配する.下殿神経は下殿動脈・静脈とともに大殿筋と中殿筋の間を走行し,大殿筋を支配する.後大腿皮神経は梨状筋下孔を通過し大腿中央で大腿筋膜を貫き皮下に広がる.純粋な知覚神経で大腿後面と膝窩内側を支配する.坐骨神経は梨状筋の下を通過した後,後大腿皮神経と共に小坐骨切痕の外側で上双子筋・内閉鎖筋・下双子筋,坐骨結節の外側で大腿方形筋の表面を走行する.大腿後面をまっすぐに下降し,膝窩で脛骨神経・総腓骨神経に分岐する.
【ハイドロリリースの実際】
はじめにSLRでの疼痛誘発と下肢挙上角度,症状が強くなる動作を確認しておく.患者を腹臥位,殿溝が十分見える状態とし,衣服や下着が観察や注射の妨げにならないようにする.殿溝へ短軸方向にプローブを当て坐骨結節を描出する.坐骨結節上に付着するハムストリングの腱,坐骨結節外縁から起始する大腿方形筋,下双子筋が坐骨結節同定の指標になる.高齢者では坐骨結節の骨輪郭が不整な場合が多い.坐骨結節から近位方向へプローブをスライド走査すると,線状高エコー像の小坐骨切痕が確認でき,膝屈曲位で股関節を他動的に内外旋すると小坐骨切痕上を滑走する内閉鎖筋を観察できる.内閉鎖筋上に拍動する血管を認め,その内側に後大腿皮神経,外側に坐骨神経を確認できる.10mlシリンジに生理食塩水を吸引した後,22Gカテラン針を装着し気泡を除去しておく.イソジン消毒後,後大腿皮神経・坐骨神経の内側に向け交差法で針を刺入.針を刺した瞬間大殿筋が収縮し画像が動くことがある.標的が深い位置にあるため,シリンジを持った手を小刻みに動かしながら軟部組織の動きで針先位置を確認する.針先が標的に近づいたら,生食を少量注入し針先位置を再確認する.生理食塩水注入後,注入部の近位・遠位神経周囲に十分生理食塩水が広がるようプローブで圧迫しながら押し広げる.注射後,股関節を内外旋し,神経が走行する筋間の滑走が大きくなっていることを確認する.次にSLRと症状が強くなる動作での除痛効果を確認する.病態把握が正確であれば,注射直後から痛みやしびれが軽減する.局所麻酔薬ではないため安静は特に必要ない.