西上 和宏

Kazuhiro NISHIGAMI

御幸病院LTAC心不全センター

LTAC Heart Failure Center, Miyuki Hospital

キーワード :

【背景】
近年，Point-of-Care超音波は焦点を絞ったアルゴリズムで，短時間で簡易に施行でき，注目されているが，血管に関するものは比較的少ない．ここでは，深部静脈血栓症（DVT）に関する報告，大動脈に関する報告，致死的胸痛疾患としての大動脈解離，静脈血栓塞栓症（肺塞栓症）を含む報告に関して言及する．
【DVTエコー】
欧米では，大腿静脈と膝窩静脈の2ポイントを圧迫法で評価するDVTのPoint-of-Care超音波として知られている．これは「Serial 2-Point Ultrasonography Plus D-Dimer vs Whole-Leg Color-Coded Doppler Ultrasonography for Diagnosing Suspected Symptomatic Deep Vein Thrombosis A Randomized Controlled Trial. JAMA. 2008;300（14）:1653-1659.」の報告にもとづいているが，D-dimerの併用を必要とする．エコノミークラス症候群で知られる静脈血栓塞栓症の多くは，下腿静脈の血栓に起因することが多いため，災害地で多発するDVTに対しては，下腿静脈を含めた評価が望まれる．
【大動脈エコー】
冠動脈疾患を代表とする動脈硬化性疾患では，大動脈瘤等の大動脈疾患の合併も多く，無症候性であるため心エコー時に併せて大動脈をスクリーニングすることが望まれる（Simultaneous examination of the aorta in echocardiography of patients with coronary artery disease. 8（4）, 150-151, 2010 J Echocardiogr）．上位肋間（Superior approach）による上行大動脈の観察，小スケール（Small scale view）による左房背面の下行大動脈の観察，心窩部（Sub-xiphoid view）から腹部での腹部大動脈の観察，さらに胸骨上（Supra-sternal view）での大動脈弓部の観察は頭文字をとって4S viewとして報告されている．習慣となれば，短時間の評価が可能である．
【致死的胸痛疾患に対するEASY screening】
Stanford A型大動脈解離では19％に心膜液（Effusion）がみられる．逆に心膜液があれば大動脈解離を疑う重要な所見である．また，Aorta内のフラップや三日月状の壁肥厚から大動脈解離が診断される．肺塞栓では，右室（Size of right ventricle）の拡大と左室の拡張期変形（D-shape）が広く知られた所見である．急性冠症候群では，虚血のカスケードから，症状や心電図変化より先に壁運動異常（Asynergy）がみられることが認識されている．以上のように，EffusionとAortic abnormalityから大動脈解離，Size of right ventricleとD-Shape of left ventricleから肺塞栓，ASYnergyから急性冠症候群と頭文字を合わせるとEASYとなって憶えやすく致死的胸痛疾患のスクリーニングとして報告（Point-of-care echocardiography for aortic dissection, pulmonary embolism and acute coronary syndrome in patients with killer chest pain: EASY screening focused on the assessment of effusion, aorta, ventricular size and shape and ventricular asynergy. 13（4）, 141-144, 2015 J Echocardiogr）されている．
【結語】
災害時に多発するDVT，無症候性に進行する大動脈瘤，多彩な症状を呈して致死的病態である大動脈解離や肺塞栓症をpoint-of-care超音波の血管評価として取り上げた．習得しやすく，短時間に実践できることがpoint-of-care超音波の重要な特徴であり，広く普及することが望まれる．