Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

特別プログラム・知を究める 泌尿器
シンポジウム 泌尿器2 小径腎腫瘍術前術後の画像評価のポイント

(S434)

病理学的観点から見た小径腎腫瘍の特徴

Pathological features of small renal tumors

都築 豊徳

Toyonori TSUZUKI

愛知医科大学病院病理診断科

Department of Surgical Pathology, Aichi Medical University Hospital

キーワード :

一般的にcT1a相当の小径腎腫瘍は予後良好な疾患と考えられている.そのことから,小径腎腫瘍の標準治療の一つとして腎部分切除術が広く行われ,ロボット支援腎部分切除術の保険適用から,その対象が益々増加している.また,様々なアブレーション治療や監視療法も行われている.しかしながら,cT1a症例が必ずしも低ステージ及び低悪性度の腎癌ではない.
2011年に発刊されたAJCC/UICC第7版では,T3aは”肉眼的に腎静脈やその区域静脈に進展する腫瘍および/または腎洞(腎盂周囲)脂肪織に浸潤するが,(腎周囲組織への進展を認めるが)Gerota筋膜をこえない腫瘍“と定義されている.しかしながら,しばしば腎洞内区域静脈の腫瘍進展は見過ごされることがある.近年,顕微鏡的に腎洞内区域静脈に腫瘍進展を認める症例も,肉眼的に同部位に腫瘍進展を認める症例とほぼ同様に予後不良であることが示されている.それを反映して,2017年に発刊されたAJCC/UICC第8版では,T3aは”腎静脈やその区域静脈に進展する腫瘍(以下第7版と同じ)”と定義された.腫瘍進展は非連続的に存在することが少なくなく,腎全摘術でないと腎洞内区域静脈の腫瘍進展が正確に評価されない可能性がある.更には,腎癌に隣接した腎洞周囲を注意深く観察しない場合には,腫瘍進展そのものを見落とす危険性がある.このような症例に対して腎部分切除術が行われると,見かけ上腎癌成分は取り切れているが,実際には腎洞周囲脂肪織内の静脈内に腫瘍成分が残存する病態となる.その結果として,腎癌の局所再発もしくは遠隔転移が生じる可能性がある.
 cT1a相当の小径淡明細胞型腎細胞癌においては,一般的に病理学的予後因子である核異型度は低く,腫瘍壊死は存在しないことが多い.しかしながらこれらの症例群において,高い核異型度,特に肉腫様の形態を示す症例が少なからず存在する.また,腫瘍壊死を伴った症例も存在する.これらの要素を有する症例の予後は不良であり,遠隔転移及び腫瘍死に至る症例は相当数存在する.従って,これらの存在を術前もしくは治療前に正確に認識することは極めて重要である.小径腎腫瘍を考える上で被膜の認識が重要とされるが,被膜自体の議論はほとんど行われていない.被膜は線維性結合織から構成される成分で,腫瘍の増殖に伴って生じると考えられているが,その意義は不明である.実際に被膜を認める腫瘍と認めない腫瘍に予後差は認められない.被膜よりも重要な病理学的因子として,腫瘍の浸潤性がある.既存の腎組織内に腫瘍細胞が浸潤性に増殖する症例が少数存在する.一般的に認められる圧排性に増殖する腫瘍群と比較して,これらの予後は不良であることがわかってきた.これらの存在も治療前に認識しておく必要性がある.
 当日は高ステージ,高悪性度の小径腎腫瘍の問題点を提示するとともに,それに対応する病理所見を示す.これらの多くは画像的に重要視されていない傾向にあるが,治療方針を考える上では今後の検討が必要な項目であると考える.発表当日の活発な議論を期待したい.