Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

特別プログラム・知を究める 泌尿器
シンポジウム 泌尿器1 低侵襲超音波診療update-超音波ガイダンス治療・下部尿路機能評価を中心に-

(S429)

エコーを用いた下部尿路症状治療前後の膀胱虚血評価

Evaluation of bladder ischemia after treatment of lower urinary tract symptoms

和田 直樹, 柿崎 秀宏

Naoki WADA, Hidehiro KAKIZAKI

旭川医科大学腎泌尿器外科

Renal and Urologic Sugery, Asahikawa Medical University

キーワード :

下部尿路症状(Lower urinary tract symptoms: LUTS)を引き起こす疾患は多岐にわたり,加齢や神経因性の疾患に併発するもの,男性では前立腺肥大症(benign prostatic hyperplasia: BPH),女性では骨盤臓器脱(Pelvic organ prolapse: POP)に代表される下部尿路閉塞疾患などが挙げられる.しかし今までLUTSの原因として考えられていた基礎疾患がない患者であってもLUTSを発症する患者は臨床上よく遭遇する.最新の下部尿路症状診療ガイドラインにおいてはLUTSを来す病態に膀胱血流障害や自律神経系の活動亢進が新たに付け加えられた.近年,膀胱虚血や自律神経系亢進とLUTS発症とを結びつける数多くの臨床研究や基礎研究がなされている.しかし実際臨床の場面において膀胱の虚血状態を直接的に評価する手段は確立されていない.
超音波検査は泌尿器科領域の日常診療で汎用される検査であり,特に下部尿路領域では超音波を用いた前立腺体積や膀胱壁肥厚の計測などが診療に有用な情報を与えている.われわれは以前小規模の臨床研究ではあるが,男性BPH患者に対する内科的,外科的治療前後において経腹超音波を用いて膀胱動脈を検出し,その血管抵抗(resistive index: RI)を計測することで膀胱の虚血環境を評価した.BPH群は正常群と比べ膀胱RIが高値であり,膀胱虚血の状態であった.薬物治療や外科手術後に膀胱RIは有意に低下したが,治療によりLUTSが改善した患者群に比べて,治療後もLUTSが残存する患者群では膀胱RIの低下が不十分であり,膀胱虚血の残存が推察された.またそのような患者群では高血圧,糖尿病や高脂血症といった動脈硬化のリスク因子を併せ持っていることが多かった.これらの結果から,BPHに伴うLUTSの改善には膀胱虚血の改善が重要であるが,動脈硬化のリスク因子を併せ持つ患者群では不十分な膀胱虚血改善がLUTS残存に帰結すると考えられた.
現在,さらに微細な血流の評価が可能な超音波装置が開発されつつあり,容易かつ簡便に下部尿路虚血の評価が可能となるであろう.日常臨床の場で前立腺体積や膀胱壁の測定と同様に膀胱血流の測定が普及すれば,治療によるLUTSの改善のみならず,全身疾患の一部として膀胱虚血が治療判定項目として焦点があてられるようなパラダイムシフトが引き起こされるかもしれない.