英文誌(2004-)
特別プログラム・知を究める 小児
シンポジウム 小児3 先天性心疾患:術後の心エコー
(S382)
完全大血管転位症に対する心房レベルでの血流転換術後の心エコー所見
Echocardiographic findings of atrial switch operation for the complete transposition of great arteries.
富松 宏文
Hirofumi TOMIMATSU
東京女子医科大学循環器小児科
Associate lecturer, Pediatric cardiology
キーワード :
先天性心疾患の治療成績の向上に伴い,乳幼児期に手術を受け成人期に達する患者が増加してきている.この中には現在ではあまり施行されない術式で治療を受けている患者もいる.したがって,成人期に達した先天性心疾患患者の診療に当たる場合には,時代背景を認識したうえで,古い術式についての知識も必要となる.特に完全大血管転位症(TGA)に対する手術方式は病型によって異なるだけでなく時代と共に変化してきている.
TGAはチアノーゼ性心疾患の中ではファロー四徴症についで頻度の高いもので,先天性心疾患児の2.2%を占めると言われている.本症の基本病型は心室-大血管関係が正常と逆になっていることである.この基本形態に加え,心室中隔欠損を伴うものをⅡ型,心室中隔欠損と肺動脈狭窄を伴うものをⅢ型,肺動脈狭窄(左室流出路狭窄を含める)だけのものをⅣ型とし,これらの異常を伴わないものをⅠ型とすることが多い(Mustard分類).病型により血行動態や自然歴は異なるが,血行動態の基本は肺循環と体循環が並列となっていることである.したがって,治療としては心房レベル,心室レベル,および大血管レベルのいずれかで血流転換術を行い,2つの循環が直列になるようにする必要がある.また,病型により適応となる術式も異なってくる.
心房レベルでの血流転換術はまず,Senningにより自己組織を用いた方法が提唱されたが,その手技が複雑であることから,人工のバッフル(隔壁)を用いた手術がMustardにより行われるようになった.これらの術式はいずれも心房内で肺静脈血を右側心房に導き右室に流入させ,体静脈血は肺静脈経路の上下を通り左側心房を経由し左室に流入することになる.このような心房内操作が手術の基本であり,心室中隔欠損を伴っていれば,同時にパッチ閉鎖を行う.しかし,肺動脈弁輪が狭小な場合にはその狭窄の解除が困難であることから,心房レベルでの血流転換術が選択されることは少ない.したがって,適応となる病型は主にⅠ型,Ⅱ型となる.術後のエコー所見はSenning手術とMustard手術とで,心房内のバッフルが自己組織であるか人工物であるかが異なるだけで他はほとんど共通している
本術式では術後も体心室が右室であるため,右室機能と三尖弁機能が術後の問題点となる.さらに,複雑な心房内操作が行われることから,体静脈経路および肺静脈経路の狭窄が問題となることもある.心房性不整脈も大きな問題である.最近ではカテーテルアブレーションによる不整脈治療も施行されることが増加してきており,これらの術後の形態および機能評価も重要なものとなっている.
心エコーでの観察ポイントは右室機能,三尖弁機能(主に逆流),肺静脈経路の狭窄の有無,体静脈経路の狭窄の有無,肺高血圧の程度,心房間残存短絡の有無などとなる.
本セッションではTGAの術前の心エコー所見とこれら心房レベルでの血流転換術術後の心エコー所見を提示し,術後のエコーによるチェックポイントについて概説したい.