Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

特別プログラム・知を究める 小児
シンポジウム 小児1 小児超音波検査のpitfallー正常?異常?ー

(S375)

腹部領域の正常?異常?

Ambiguous Ultrasonic Signs in Pediatric Abdominal Region

藤井 喜充

Yoshimitsu FUJII

東北医科薬科大学小児科

Pediatrics, Tohoku Medical and Pharmaceutical University

キーワード :

小児腹部エコーでは,しばしば「異常?」と首をかしげる所見に遭遇する.アーチファクトを除外しても,ヒトの身体に「破格」がある以上,「正常?異常?」で悩むことになる.この発表では破格の定義を拡大解釈し,「形態的に普通とは異なるが,機能的に問題がないもの」のみならず,「治療法がなく経過観察となるもの」も含める.上腹部実質臓器を中心に経験症例を呈示し,文献的考察を加える.
1)右下肝静脈: 肝実質は門脈域の構造を基準として,Couinaudの8亜区域に分割される.右肝静脈は通常1本で,前区域(S5+8)と後区域(S6+7)の境界となるが,破格として右下肝静脈との2本で構成されることがある.太さだけでは鑑別できないので,右下肝静脈が必ず本来の右肝静脈の背下方に位置する: 日消外会誌33(5), 572-8, 2000. ことで同定する.
2)肝亜区域数的異常: 肝門部から門脈域をたどっていくと,しばしば亜区域欠損・過剰亜区域に遭遇する: Surg Radiol Anat 33(5), 459-63, 2011.右肋骨弓下走査で外側区域に多くみられる.Couinaudの亜区域に則り,門脈域分枝を一本ずつ丹念にたどり,立体構造を把握する.
3)肝門部形態: 右肋骨弓下走査で門脈一次分枝長軸像を描出すると,門脈の腹側に左右肝管が騎乗している.肝動脈は右肝前方を乗り越え門脈の頭背側で左右に分枝する形が教科書的だが,頻度的には4割に過ぎない: Transplant Int28(10), 1216-26, 2015.肝管と門脈間,もしくは門脈後方を通る破格も多く存在する.肝門部形態異常は,門脈本幹と左右肝管で判定する.
4)肝腫大: 日本超音波医学会の基準: J Medical Ultrasonics27(7), 973-80, 2000. を外れる症例にしばしば遭遇する.肝機能は正常であり他に所見を認めないが,肝腫大のみ基準に該当する場合は,ほぼ全例が肝左葉のみの腫大と判定され,肝右葉は正常範囲内である.他臓器との比較が有用であり,身長・右腎・脾臓長径との比較の他,小児や法医学領域では上前腸骨棘間距離: 日本小児栄養消化器肝臓学会雑誌26(1), 21-7, 2012. も有用と報告されている.小児では脾臓長径は左腎長径に対し1.2倍で: African health sciences14(1), 246-254, 2011,腎長径と肝右葉サイズはほぼ等しい.妥当であれば,肝右葉サイズのみで肝腫大は判定する.
5)肝外胆管径: 反復性腹痛の年長児ではしばしば肝外胆管径が,日本膵・胆管合流異常研究会基準(濱田基準): 胆と膵31(11), 1269-72, 2010. から外れているが,MRCP and/or ERCPで膵管胆管合流異常を認めない症例にしばしば遭遇する.濱田基準は空腹時の最大拡張部位の径を1,000例以上計測し求めたものだが,肝外胆管: 日本小児栄養消化器肝臓学会雑誌, 23(1), 8-15, 2009.も,膵管: Am J Roentgenol175(5)1459-61, 2000.も食事や呼吸の影響を受け,ダイナミックに拡張するので,一度の検査の径だけで判断してはならない.膵胆管合流異常がある場合は,(1)膵内胆管narrow ductal segmentも拡張,(2)条件によっては共通管の描出も可能,(3)胆嚢壁の肥厚,を有する特徴のうち,ほぼ全例にみられる(1),(2)が認められた症例のみにMRCP, ERCPの検査を施行する.