Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

特別プログラム・知を究める 小児
シンポジウム 小児1 小児超音波検査のpitfallー正常?異常?ー

(S374)

小児の心臓超音波検査:正常?異常?

Echocardiography in children: Normal or Abnormal? That is the question

森 一博

Kazuhiro MORI

徳島県立中央病院小児科

Pediatrics, Tokushima Prefectural Central Hospital

キーワード :

一般小児科医にとって「心エコー検査」は馴染みにくい検査法である.本シンポジウムでは,具体的に3つ項目から,その問題点を考えてみたい.
1:川崎病と冠動脈径
 主要症状が揃わない「不全型」川崎病の診断にはしばしば苦慮する.その際,心エコーで心臓合併症を観察する事になるが,冠動脈拡張に関しては「見た感じ」ではなく,Zスコアを算出するのが「軽度の拡大」を見逃さない方策である.AHA2017 Scientific statementでは,「川崎病の診断基準を満たさず,一般的治療が無効の発熱が続く乳児では,冠動脈径Z>2.5で川崎病を強く疑う」と指摘している.これとは別に,「横洞」や「左心耳」などの正常構造物を左冠動脈と間違う場合があり注意を要する.
2:心機能:何を診ればよいのか?
 血圧が低下した児で,治療法の選択に左室駆出率(EF)をよく利用する.しかし,脱水で左室腔が縮小すると見かけ上のEFは増大する.また,心筋炎では,心筋壁が浮腫状となり内腔が狭小化し「EF低下がわずかでも心拍出量は低下する症例」がある.このように,左室機能では,EFのみならず左室壁厚や左室容積(径)にも注目するべきで,年齢別正常値を横においての検査が望まれる.「何をもって心機能低下とするか?」も不透明な点が多い.最近では,円周方向よりも長軸方向収縮が早期から低下する事が知られている.小児においても四腔断面での長軸機能分析で潜在的心機能障害を検出でき,簡便な方法としては僧帽弁輪部移動距離(MAPSE)が用いられる(図).
3:発生学と解剖
心臓の構造は発生学を考えると理解しやすい.たとえば,心房は「凸凹した原始心房」+「ツルツルした静脈洞(または肺静脈)」で形成される.両者の接合部は心房内の突出物(分界稜やクマジン稜)や,右房内に漂う構造物(下大静脈弁)として認められ,それら構造物を異常と誤認してはいけない.また,心房中隔は「2枚の中隔」で構成されており,卵円窩は菲薄である.卵円窩の構造を見るためには心房中隔をビームに直交するように配置するのがよく,短絡血流の観察にも適している.
小児心エコーでは「計測指標の年齢別正常値」を手元に置き,「解剖学と発生学の知識」を持つことが必要である.