Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

特別プログラム・知を究める 産婦人科
パネルディスカッション 産婦人科1 子宮頸管長計測の意義を問い直す

(S361)

経腟超音波検査による子宮頸管腺領域像の検出とその意義

The detection of the cervical gland area using transvaginal ultrasound and its significance

野田 佳照, 関谷 隆夫, 藤井 多久磨

Yoshiteru NODA, Takao SEKIYA, Takuma FUJII

藤田保健衛生大学医学部・産婦人科

Obstetrics and Gynecology, Fujita Health University School of Medicine

キーワード :

 妊娠末期の妊婦健診における子宮頸管熟化の評価は,従来より内診によるBishop scoreによって行われてきたが,侵襲的で,検者による主観や診察技術の習熟度によって再現性に限界がある.一方,高周波探触子を用いた経腟超音波検査は,子宮頸部を高い解像度で描写が可能で,頸管長の正確な計測や,頸管組織の解剖学的特徴を評価することができる客観的診断方法である.実際に本法を用いて子宮頸部頸部を観察すると,中央に線状の頸管腔,その周囲に頸管腺組織を反映する1層の帯状領域としての頸管腺領域像(cervical gland area :CGA),さらにその外側には頸管実質が描写される.
 近年,早産の診断と予測因子としての経腟超音波検査による頸管長計測の意義が検討され,切迫早産の管理に有用な指標とされてきたが,あくまで定量的評価であり頸管の早期熟化の1因子を捉えた所見である.一方,CGA所見は頸管熟化の組織的変化を評価できる可能性がある.
 実際に経腟超音波検査を用いて子宮頸部を観察すると,非妊娠時はもとより妊娠初期であればCGAはほぼ100%の例で描出可能である.それ以降,CGAの検出率は正常妊娠例においては妊娠27週までは概ね100%で,妊娠28~31週でも93%である.その後妊娠32~35週で70%,妊娠36週~39週で56%,妊娠40週以降で17%と内診による頸管熟化指数の上昇に伴って経産の有無に関わらず急激に検出率が低下する.さらに,流早産に対するCGAの検討によると,切迫流早産では正常妊娠に比してCGAが早期から不明瞭化している.こうした知見より,CGAの早期不明瞭化所見は,定性的評価指標であるが故の問題点を残すものの,頸管長の短縮ならびに内子宮口の開大所見とならんで,流早産のマーカーとして有用と推測される.また臨床的にも,流早産の診断とリスク評価にこれら3所見を併用し,すべての所見に異常がなければ陰性的中率と特異度が高いことから流早産リスクは非常に低く,逆に1つでも異常所見を認めれば流早産のリスクは上昇し,特にCGAの不明瞭化所見を認めれば,子宮頸管の早期熟化を伴う切迫流早産のリスクが高いと判断できる.
 一方,CGAが妊娠中の子宮頸管熟化に伴って変化するのであれば,妊娠末期の子宮頸管熟化不全との関連も示唆される.そこで,妊娠末期の子宮頸管熟化と,妊娠・分娩予後を反映する指標を評価する為に,妊娠末期の経腟超音波検査によるCGAの検出・頸管長・および内診と分娩予後の関係を検討すると,分娩誘発・陣痛促進・吸引分娩・緊急帝王切開術を要した介入群は,介入なく経腟分娩に至った正常群に比して頸管長と内診所見には差がなかったが,分娩4週前からの全ての週数においてCGAの検出率が高く,CGAが不明瞭化する時期も遅かった.また,分娩直前の妊婦健診における予後規定因子(年齢,CGA所見,頸管長,内診)の介入分娩に対するリスク比は,CGA所見がOdds ratio 4.62と最も高く,介入分娩に対する独立した予測因子であった.そこで,CGA所見と妊娠末期の子宮頸管熟化における細胞外マトリックスと細胞外基質の変化に関わるコラーゲン分解酵素や蛋白分解酵素との変化を検討すると,CGAが不明瞭化した群では,MMP-2,MMP-9,TIMP-1が高値を示したことから,CGAの不明瞭化所見は子宮頸管を構成するコラーゲンの分解と軟化及び,それに伴う頸管腺組織の崩壊を反映する可能性が示唆された.
 経腟超音波検査によるCGA所見は,流早産や子宮頸管熟化不全の診断と予後を予測する新しい評価指標として有用である.