Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

特別プログラム・知を究める 産婦人科
シンポジウム 産婦人科1 卵巣腫瘍

(S348)

MRIからみた卵巣腫瘍診断の現状と可能性

The current condition and possibility of ovarian tumor diagnosis using MRI

植田 高弘

Takahiro UEDA

藤田保健衛生大学放射線医学

Radiology, Fujita health university

キーワード :

【背景】
日本医学放射線学会で策定された画像診断ガイドライン2016年版では「卵巣腫瘤の質的診断にMRIは有用か?」とのClinical Questionに対して「第一選択である超音波にて診断がつかない症例では,MRIが卵巣腫瘤の質的診断に寄与するため,推奨する.卵巣腫瘤の良悪性の鑑別において,造影MRIにより正診率が向上するため,推奨する.」と記載され,その推奨グレードはBと位置付けられている.
【対象・方法】
今回,当院において2017年に手術された卵巣腫瘍126例(術後病理:良性104例,境界悪性8例,悪性14例)における術前MRIの診断精度を評価し,当院における卵巣腫瘍の術前画像診断の実際を踏まえ,MRIからみた卵巣腫瘍診断の現状を検討した.
【結果】
年齢44.6 ± 14.9歳(20-83歳).良悪性の正診率は92.1%(116/126例),組織型の正診率は88.1%(111/126例)であった.術前のMRIで良性と評価した正診率は100%(98/98例),境界悪性と評価した正診率は67%(6/9例),悪性と評価した正診率は91%(11/12例),他7例は術前MRIで良悪性の評価が困難であった.術前後で良悪性の評価が異なっていた症例は,いずれも粘液性腫瘍(3例)で良性腫瘍を境界悪性腫瘍と過大評価していた.特徴的な所見を呈する組織型である成熟嚢胞性奇形腫(37例97.3%),内膜症性嚢胞(27例96.3%),線維腫(4例100%),漿液粘液性腫瘍(3例100%)の正診率は高値であった.術前MRI診断で組織型の評価が異なっていた成熟嚢胞性奇形腫の症例は後方視的に評価しても画像上脂肪成分を検出できず,術前MRI診断で組織型の評価が異なっていた内膜症性嚢胞の症例はT1強調像での高信号やT2強調像でのshadingが認められず,あたかも漿液性嚢胞腺腫等の良性上皮性腫瘍にみえる症例であった.
【考察・結論】
卵巣腫瘍における良悪性の術前MRIの診断精度は比較的良好な結果であった.卵巣腫瘍は多くの組織型が存在する一方,MRIでは特徴的な画像所見を呈する場合が多く存在する.腫瘤内に脂肪が存在する場合は奇形腫等の胚細胞性腫瘍,T1強調像で高信号,T2強調像でshadingを呈し,背景に癒着を示す所見を認めれば,内膜症性嚢胞と評価できる場合が多い.腫瘤が嚢胞主体の場合は上皮性腫瘍を,充実成分主体の場合では性索間質性腫瘍,高異型度漿液性癌,ディスジャーミノーマ等,良性から悪性腫瘍を鑑別に考慮し,腫瘤の信号変化や形状,遠隔転移,腹膜播種などの間接的な画像所見,年齢や腫瘍マーカー等の情報も加味して評価する必要がある.漿液性境界悪性腫瘍では嚢胞壁在にpapillary architecture and internal branching pattern,漿液粘液性境界悪性腫瘍ではT2強調像で著明な高信号を示す充実部を呈する場合が多い.そのため,卵巣腫瘍に充実部を認めれば,悪性と判断するのでなく組織型を推定した上での良悪性を判断するのが重要と考える.一方,上皮性腫瘍である粘液性腫瘍は漿液性腫瘍と異なり表在増殖型は存在せず,癌腫であっても明らかな充実部を形成する事は比較的稀とされている.粘液性腫瘍における画像での良悪性の評価はより細かな嚢胞を形成して隔壁の密度が高い場合に悪性を疑うとされている.その評価方法は定性的であり,現時点では粘液性腫瘍の良悪性評価の一つの限界と考える.今回,MRIによる卵巣腫瘍診断の現状と典型的な画像所見を中心に概説する.