Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

特別プログラム・知を究める 産婦人科
シンポジウム 産婦人科1 卵巣腫瘍

(S346)

卵巣腫瘍の超音波診断 over view

Overview of sonographic diagnosis in ovarian tumor

関谷 隆夫, 野田 佳照, 鳥居 裕, 藤井 多久磨

Takao SEKIYA, Yoshiteru NODA, Yutaka TORII, Takuma FUJII

藤田保健衛生大学産婦人科

Obstetrics and Gynecology, Fujita Health University

キーワード :

 卵巣腫瘍は,女性の少なくとも1%に存在し,それ以外にも性成熟期においては月経周期の中で卵胞発育と黄体化をきたすことに伴う機能性腫瘤や,子宮内膜症による貯留嚢胞も発生する.
 このうち,腫瘍性病変は良性・境界悪性・悪性に分類され,我が国において卵巣がんと新たに診断される人数は,1年間に10万人あたり14.3人で,40歳代から増加を始め,50歳代前半から60歳代前半でピークを迎える.平成28年の厚生労働省による『死因簡単分類別にみた性別死亡数』によれば,卵巣がんの死亡数は4758人と,悪性新生物による死亡の11番目の3%を占め,近年増加傾向である.また,全国がん(成人病)センター協議会の生存率共同調査(2017年9月集計)によると,2006-2008年に治療を受けた卵巣がんの病期別5年相対生存率は61.1% で,1期では87.4% と高いものの3期44.2% 4期28.3%と急激に低下するにもかかわらず,初期では自覚症状に乏しく全体の40%以上が予後不良なⅢ期以上の症例とのことである.さらに,日本人女性の特徴として,卵巣がん全体の発生頻度は未だ欧米より低いものの,いわゆる比較的若年層における発生率が高いことも指摘されている.このように,悪性腫瘍はもとより,良性腫瘍やその他の腫瘤であっても急性腹症・月経困難症・不妊症の原因となり,女性のQOLの向上には早期からの確実な診断と治療が必要となる.
 卵巣腫瘤の診断法として,問視触診・血清腫瘍マーカー・画像(超音波検査・MRI・CT・FDG-PET)等が挙げられるが,スクリーニングを目的とした婦人科検診や一般外来受診時のファーストコンタクトは,問視触診と超音波検査であり,臨床検査としての感度の高さや低浸襲性から超音波検査の意義は高い.その一方で,本法は診断する医師自身が走査して診断を行うことから,再現性と精度の限界が指摘されてきた.これを受けて日本超音波医学会は,1994年に用語・診断基準委員会から卵巣腫瘤エコーパターン分類(案)を公示し,2000年には理事会の承認を得て医用超音波診断基準として正式な公示に至り,広く認識されてきた.しかしながら,本基準は組織型の推定を目的としている為に疾患の進行度や予後の予測は困難で,さらに観察方法はB modeによる2D断面のみであり,ドプラ法による血流像の取り扱いについても将来の課題として残されてきた.
 一方,欧州においては1990年に超音波所見に臨床所見と腫瘍マーカーを組み合わせたRisk of malignancy index(RMI)が報告され,1999年にはThe International Ovarian Tumor Analysis(IOTA)groupが発足し,卵巣腫瘤の良悪性所見分類と各種のリスク評価法が示されてきた.特に後者による手法は,人種的な卵巣悪性腫瘍の頻度の高さや,ステージ分類や転移性腫瘍の可能性の予測を目的としていることによる臨床的な優位性も相俟って,広く認知・普及しつつある.
 本セッションにおいては,わが国における卵巣腫瘤に関する最新の超音波診断を中心に,実際の治療にあたっておられる腫瘍専門医による超音波診断の問題点の指摘や,他の画像診断の最新の知見についても拝聴し,今後我々がどのように進むべきなのかを検討する予定である.本パートでは,こうした議論に先立って卵巣腫瘤の超音波診断の現状と可能性について,診断機器と診断手法の両面から俯瞰したい.