Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

特別プログラム・知を究める 消化器
パネルディスカッション 消化器2 腹部point-of-care US

(S324)

腹部POCUSのあるべき姿 画像診断専門医の意見

Abdominal POCUS should be like this. An opinion of image diagnostic specialist

太田 智行, 中田 典生, 西岡 真樹子

Tomoyuki OHTA, Norio NAKATA, Makiko NISHIOKA

東京慈恵会医科大学放射線医学講座

Radiology, The Jikei university school of medicine

キーワード :

 1990年代以降,多列CT装置の普及は急速に進み,急性期医療の診断学に欠かせない存在となります.急性腹症を代表とする腹部疾患の診断においては,切り札的な役割を果たすだけでなく,多くの施設で超音波検査に代わり,第一選択の検査となりました.他の先進国のように,行政によるCT装置の制限は設けられず,放射線科医によるCT検査制限もかからなかったためか,CT検査は臨床の先生方にも容易にアプローチできるmodalityとして定着し,現在の確固たる地位が築かれたと考えられます.  
 CT利用の最大の長所は,超音波検査と対照的で,臨床医が推定していない疾患が正確に診断され得ることです.しかしながら,その結果か,臨床医は身体所見をとらなくなったし,とれなくなったように思います.CT検査依頼コメントも”腹痛精査”のような主訴そのものが記入されることが多く,話も半分聞いた程度で,お腹を触らずにオーダーされた検査も少なくないように思います.
 海外でCTの医療被爆による健康被害が報告されています.日本では多くの疾患の診断をCT検査に依存してきたために,日本国民が受けてきた,そして今後も受けるであろう過剰医療被爆という問題があります.高い陰性検査率は放射線科画像診断専門医の労働環境にとって問題ですが,必要のなさそうな医療被曝を受け続ける日本国民のほうが問題であり,解決されるべき問題です.
 abdominal POCUSは,そういった現代日本の医療問題を解決する一つの解決策でもあると考えています.POCUSの導入は,臨床医に詳細な病歴聴取と身体所見の情報を集めるよう強いるでしょう.decision treeを進めるために最も効果的な検査と方法を考えさせるきっかけになるはずです.放射線科(技師ら)がCTオーダーの際にPOCUSの結果を条件として求めたら良いかもしれませんが,状況によってはPOCUSを省略すべき病態もあり,対応はcase by caseになるでしょう.腹痛に対するPOCUSは,経験の乏しい医療者には難しい側面がありますが,病歴聴取,身体診察の延長線上に上手く組み入れ,CT検査が後に控えるプロトコールを用いれば,偽陰性を低く維持しつつ,無用な医療被爆を避けられるのではないかと考えています.
 POCUSの普及活動は,現在日本の医師が失いかけている臨床能力を再度呼び戻す動きとなり得,大がかりな検査偏重の日本の医療を変える可能性があることを知っておく必要があります.