岩崎 信広, 鄭 浩柄, 杉之下 与志樹, 栃尾 人志, 江藤 正明, 簑輪 和士, 猪熊 哲朗

Nobuhiro IWASAKI, Hiroshi TEI, Yoshiki SUGINOSHITA, Hitoshi TOCHIO, Masaaki ETO, Kazushi MINOWA, Teturou INOKUMA

¹神戸市立医療センター中央市民病院臨床検査技術部, ²神戸市立医療センター中央市民病院消化器内科

¹Clinical laboratory, Kobe City Medical Center General Hospital, ²Gastroentelogy and Hepatology, Kobe City Medical Center General Hospital

キーワード :

【はじめに】
腸閉塞とは何らかの原因により，腸管内容物の通過障害を起こしている状態をいう．原因となる疾患や病態には様々なものがあり，器質的な原因を有する機械的腸閉塞と運動機能が障害される機能的腸閉塞に大別される．さらに，機械的腸閉塞は腸管の内腔の閉塞のみで血行障害を伴わない単純性腸閉塞と血行障害を伴う複雑性（絞扼性）腸閉塞に分けられる．この中でも血行障害を伴う複雑性（絞扼性）腸閉塞は絶対的手術適応の対象疾患であり早期診断・治療方針の決定がその後のQOLを大きく左右する．したがって初動の検査法として位置づけされているUSはきわめて重要な役割を担っている．今回，本セッションのテーマであるUSによる腸閉塞の評価ポイントとそのピットフォール，単純性と複雑性腸閉塞の鑑別，到達目標などについて呈示する．
【腸閉塞の評価ポイントとピットフォール】
USによる腸閉塞の評価項目としては1.範囲（局所的・広範囲）と拡張程度，2.壁肥厚の有無，3.ケルクリング襞の状態（明瞭・粗雑・消失），4.蠕動運動（亢進・低下・消失），5.内容物の動き（to and fro，停滞，沈殿），6.腹水の程度（小・中・多量）と内部エコー，7.閉塞起点の有無，8.血流評価などが挙げられる．これらの項目については定量的な評価が困難なことも多く時として診断に苦慮する場合がある．血流評価については近年カラードプラ法の感度が飛躍的に向上してきてはいるが腸管壁の虚血を評価することは依然として困難であり腸閉塞におけるカラードプラ法の活用法としては血管の位置や走行・構築異常などの評価が中心となる．
【複雑性（絞扼性）腸閉塞】
絞扼性腸閉塞を示唆する画像診断上のサインとしては「closed loop」「beak sign」「whirl sign」
「dirty fat sign」「target sign」などが挙げられる．「closed　loop」は腸管が閉鎖腔を形成して拡張した状態でその限局性に拡張した腸管の形状がC字状あるいはU字状となる．「beak sign」は腸管内腔が閉塞起点に向かって先細りとなりその形状がくちばし様に鋭角を呈した像で「whirl sign」は捻転などにより腸間膜の血管が渦状に回転した像を呈し主にカラードプラ法で評価する．これらの所見は腸管の蠕動運動の消失や内容物の沈殿を伴っている事が多く比較的容易に描出可能である．次に絞扼により血行障害を来した場合，早期においてはまず静脈の鬱滞が起こるため，動脈血流のみでなく鬱滞により拡張した静脈の有無なども評価する．多量の腹水貯留あるいは血性を示唆するような混濁した腹水も絞扼の指標となるため腹水量や内部エコーを観察する．絞扼＝壊死ではないが絞扼による血行障害が進行すれば腸管は壊死に至り腸管壁や上腸間膜静脈・門脈内にガス像が認められる場合もある．このようなガス像は深い潰瘍の存在や壊死を疑う間接的な所見となる．
【到達目標】
腸閉塞におけるUSの到達目標は閉塞原因の同定と腸管虚血の評価である．閉塞原因の同定については拡張した腸管を丹念に追っていくということが大前提であるが，拡張していない腸管の有無や位置関係，さらに通過障害を来した腸管の近傍は逆に蠕動亢進状態を呈する場合がありこれらを指標として閉塞部を検索していく．虚血に関してはBモード法およびカラードプラ法のみでは限界があるため保険適応や倫理的な問題があるが造影USなどを活用していく必要があると考えられる．
【結語】
USは腸閉塞の質的診断において必要不可欠な検査法であり，多くの有用な情報を得ることが可能である．腸閉塞におけるUSの責務を認識し，早期診断・治療方針の決定に繋がる情報を提供していく必要がある．