Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

特別プログラム・知を究める 循環器
パネルディスカッション 循環器6 負荷心臓超音波検査の活かし方・落とし穴(症例ベース)

(S279)

僧帽弁逆流に対する負荷心エコー図

The Clinical Use of Stress Echocardiography in Mitral Regurgitation Patients

板橋 裕史

Yuji ITABASHI

慶應義塾大学医学部循環器内科

Department of Cardioligy, Keio University, School of Medicine

キーワード :

 弁膜症に対する負荷心エコー図の主たる適応は,弁膜症の重症度と症状が乖離する症例である.年単位で徐々に進行する弁膜症においては重症度が重度となっても無自覚のうちに活動を制限しながら生活している症例も稀ではない.このような症例が真に症候性であるか否かを判定する際に負荷心エコー図が有用となる.これとは反対に,重症度が重度に満たないにもかかわらず症状を訴える弁膜症にも負荷心エコー図は有用である.安静時の重症度が軽く血行動態が正常に近くても,負荷により弁膜症の重症度が増悪したり,収縮期肺動脈圧(SPAP)が上昇したりするなどして症状を説明しうる血行動態異常が再現されれば,弁膜症が日常生活での症状の原因となっていると考えることができる.以上の様に症状と重症との整合性を確認する意義に加え,それぞれの弁膜症に応じたパラメーターを計測することでリスクの層別化を行う目的にも負荷心エコー図は用いられる.
 MRに対する負荷心エコー図においても上記の原則が適用される.負荷の手段としては薬剤負荷よりも,生理的な負荷を再現できる運動負荷の有用性が高いとされ,なかでも運動中の連続的な心エコー図記録が可能な半側臥位のエルゴメーターを用いた負荷が理想的とされる.MRの原因に基づいて一次性MR(器質性MR)と二次性MR(機能性MR)とを区別して負荷心エコー図の有用性を考える必要がある.一次性MRでは主として無症候性の重症MRに対して実施されることが多く,1)症状の誘発,2)SPAPの上昇,3)後述する左室収縮予備能の判定を行うことが目的となる.またこれらの症例に比べてエビデンスは不十分であるが,症候性でMRが重度に満たない一次性MRに対して負荷心エコー図が行われることもある.このようなケースでは負荷時のMR重症度の正確な評価が重要になるため,カラーおよび連続波ドプラーによる各種計測項目をプロトコールに則って測定する必要があり,安定した描出と記録を可能とするためにはチームによる検査手順の習熟が必要となる.一次性MRの予後不良因子としては1)MR重症度の一段階以上の増悪,2)SPAP 60 mmHgへの上昇,3)収縮予備能の消失(左室収縮率の増加が5%未満もしくはGLS増加<2%),4)TAPSE<18mmなどがあげられる.特に左室収縮予備能の消失は,薬物治療を行った際のLVEF低下,症状の出現,術後の左室収縮障害を予測するとされ,予後予測においては重要な指標とされている.
 二次性MRでは,症状と逆流の重症度が変動し易く,安静時心エコー図所見と症状との乖離が見られるケースが稀ではない.従って二次性MRにおいては,1)労作時呼困難を訴えるが安静時のMRが重度でない症例に対して,負荷をかけることで症状を説明しうる心エコー図所見が得られるかを判定する,2)機序不明の急性肺水腫を繰り返す症例で,MRの増悪が原因となっている可能性を検討する,3)冠動脈パイパス術を予定している症例が中等度MRを有していた場合,僧帽弁形成術を同時に施行するべきかを判断する,4)後述する予後不良因子の有無を判定しリスク層別化を行う,などの目的で負荷心エコー図検査が行われる.二次性MRの予後不良因子には1)負荷によるERO>13mm2の増加,2)SPAP 60 mmHgへの上昇があげられる.しかし二次性MRにおいては効果の確立された侵襲的治療法はないため,これらの所見は手術の適応を直接判定するために用いるのではなく,個々の症例において最善の治療法を選択するための手がかりとして使用するべきである.