Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

特別プログラム・知を究める 循環器
パネルディスカッション 循環器5 ERで求められる心血管超音波検査

(S275)

ERにおける血管エコー

Practical use of vascular ultrasonography for emergency medical care

水上 尚子, 大園 七瀬, 湯之上 真吾, 小林 沙織, 前之園 隆一, 野口 慶久, 堀添 善尚, 髙﨑 州亜, 湯淺 敏典, 木佐貫 彰

Naoko MIZUKAMI, Nanase OOZONO, Shingo YUNOUE, Saori KOBAYASHI, Ryuichi MAENOSONO, Yoshihisa NOGUCHI, Yoshihisa HORIZOE, Kunitsugu TAKASAKI, Toshinori YUASA, Akira KISANUKI

1鹿児島大学病院臨床技術部検査部検査部門, 2鹿児島大学病院心臓血管内科, 3鹿児島大学医学部保健学科

1Division of clinical laboratory, Kagoshima university hospital, 2Department of cardiovascular medicine, Kagoshima university hospital, 3Faculty of medicine, Kagoshima university

キーワード :

【はじめに】
救急の現場では,循環器疾患と関連した血管の病変について,血管エコーを用いた評価が必要となる例を良く経験する.ベッドサイドで簡便に行えるエコー検査であるからこそ,血管エコーでも迅速な評価が求められることは言うまでもない.ここでは,緊急を要する循環器疾患と関連した,ERにおける血管エコーの評価について,実例を示しながら紹介したい.
【大動脈解離における血管エコー】
大動脈解離では,血管エコーによる評価が最も重要な疾患である.解離が分枝血管に波及している場合,また偽腔から分枝血管が分岐している場合など,解離部位に関連した血管の血流障害による虚血性の臓器障害が生じる.そこで,それぞれの分枝血管への解離の波及の有無,entry,re-entryの有無と位置,偽腔内の血流状態,真腔の狭小化の有無などの情報が必要となる.胸部CT検査で診断がついている症例でも,解離の範囲は時間経過とともに拡大する場合があり,血管エコーで確認することは重要である.
*Stanford A型大動脈解離 
上行大動脈に解離がある場合は,緊急手術が検討されるため,特に迅速な診断が求められる.胸部大動脈解離手術時の体外循環器装置の送血路としては,中枢側の鎖骨下動脈と大腿動脈があるが,前者のほうが合併症も少ないため,優先的に使用される.そこで,術前に送血管が挿入可能かどうか,両部位の解離の有無を確認する.またすべての部位を断層像で詳細に確認することは時間的にも困難なため,パルスドプラ法で鎖骨下動脈遠位から腋窩動脈の血流速波形を必ず記録し,血流状態の判断の根拠とする.また,大動脈弓部にも解離の波及が疑われる症例では,腕頭動脈や総頸動脈への解離の波及の有無も必ずチェックする.
*腹部大動脈解離 
腹腔動脈,上下腸間膜動脈,腎動脈の主要な分枝血管の血流状態だけでなく,真腔の血流状態(内腔の狭小化)も観察する.特に下肢動脈の虚血の有無には注意が必要だが,腹部血管の描出が困難な場合,迅速な判断が必要とされる場合は,外腸骨動脈遠位,総大腿動脈のパルスドプラ法による血流速波形が,虚血の有無を判断する情報となる.
【肺血栓塞栓症における血管エコー】
肺血栓塞栓症の95%以上が,下肢の深部静脈血栓症が原因とされており,肺血栓塞栓症と深部静脈血栓症は,静脈血栓塞栓症という一つの連続した病態として考えられている.肺塞栓症では,1回ではなく複数回の塞栓を繰り返すことにより,重篤な病態に陥ることが知られており,肺塞栓症が疑われる症例において,血管エコーで塞栓源となる血栓の残存を判断することは,治療選択,予後の推察に重要な情報となる.
*血管エコーによる深部静脈血栓の診断根拠 
断層像で血栓の存在を確認できない場合は,探触子で圧迫し血管が圧縮されるかどうかで血栓の有無を判断する圧迫法は,迅速に判断可能な信頼性の高い方法である.緊急性の高い例では,大腿静脈~膝窩静脈を圧迫法で確認する方法もあるが,血栓は下腿静脈で最も多く検出されるため,時間が許す限り下腿内も検索することが望ましい.または,緊急時に中枢のみの観察で血栓が見られなかった場合は,下腿も含めて1週間以内に全下肢の再検を行い,下腿内血栓の中枢側への進展の有無を確認する必要がある.
*肺塞栓症のリスクが高い深部静脈血栓 
血栓の中枢側断端が心臓に近いほど,肺塞栓症のリスクが高くなる.また血栓の中枢側断端に可動性のある浮遊血栓では特に注意が必要である.さらに新鮮血栓であるかどうかは,血栓で充満している静脈径が拡大していること,血栓のエコー輝度低いこと,内部のエコー性状が均一であることなどが参考となる.