Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

特別プログラム・知を究める 循環器
パネルディスカッション 循環器4 ガイドラインの鵜呑みで本当にいいの?

(S270)

日本人における無症候性大動脈弁閉鎖不全症の至適手術時期を再考する

Reassessing the optimal timing for surgery in asymptomatic aortic regurgitation

岡田 厚, 神崎 秀明, 濱谷 康弘, 高濱 博幸, 天木 誠, 長谷川 拓也, 菅野 康夫, 小林 順二郎, 安田 聡, 泉 知里

Atsushi OKADA, Hideaki KANZAKI, Yasuhiro HAMATANI, Hiroyuki TAKAHAMA, Makoto AMAKI, Takuya HASEGAWA, Yasuo SUGANO, Junjiro KOBAYASHI, Satoshi YASUDA, Chisato IZUMI

1国立循環器病研究センター心臓血管内科, 2国立循環器病研究センター心臓血管外科

1Department of Cardiovascular Medicine, National Cerebral and Cardiovascular Center, 2Department of Cardiovascular Surgery, National Cerebral and Cardiovascular Center

キーワード :

【背景】
大動脈弁閉鎖不全症(AR)では,容量負荷による左室拡大が不可逆となる前に大動脈弁手術を行うことが推奨されている.左室駆出率の保たれた無症候性ARにおける手術適応は,日本循環器学会「弁膜疾患の非薬物療法に関するガイドライン(2012年)」ではLVDd>75mmまたはLVDs>55mmとされているが,ESCガイドラインではLVDd>70mmまたはLVDs>50mm(またはDs/BSA>25mm/m2),AHAガイドラインではLVDd>65mmまたはLVDs>50mm と本邦の基準よりも小さく設定されている.一般に体格の小さい日本人で上記のような手術適応基準が設定されているが,今回,日本人におけるARの現状,問題点および,イベント予測因子について検討を行った.
【方法】
当院にて心エコー検査を施行した症例のうち,大動脈弁狭窄症,僧帽弁狭窄症/閉鎖不全症を合併した症例を除外した,3+(moderate-to-severe)または4+(severe)のAR連続187例を解析対象とした.症候別の心エコー所見,およびフォロー期間中の心血管イベント(心血管死,うっ血性心不全,AF新規発症,NYHA II度以上への進行)予測因子をCox比例ハザード解析にて検討した.
【結果】
対象187例のうち,日本循環器学会の手術適応基準Dd>75mm, Ds>55mm, EF<50%, 有症候のいずれかを満たす症例は50例(27%)で,Dd 63±6mm, Ds 46±9mm, Ds/BSA 29±6mm/m2, EF 48±12%であった.また適応基準を満たさない無症候例が137例(73%)で,Dd 58±6mm, Ds 38±5mm, Ds/BSA 23±3mm/m2, EF 59±5%であったが,それらの患者の中にDd>70mmは2例,Dd>65mmは11例,Ds>50mmは1例でそれぞれ認められ,またDs/BSA>25mm/m2を満たす症例は実に35例(26%)で認められた.
 無症候例137例のうち,平均観察期間1340日の間に30例の心血管イベントが認められ,Cox比例ハザード解析では,左房径,左房容量,e’がそれぞれ有意な心血管イベントの予測因子であった.
【結語】
現在の日本循環器学会ガイドラインの手術適応となる症例においても,Dd>75mmまたはDs>55mmまで拡大した例は少数であった.また無症候性ARの心血管イベント予測因子として左房拡大やe’の低下があり,左室拡大・左室収縮能のみでなく,拡張能なども考慮し手術適応を検討していく必要がある可能性が考えられた.