大谷 恭子

Kyoko OTANI

産業医科大学病院臨床検査・輸血部

Department of Laboratory and Transfusion Medicine, University of Occupational and Environmental Health, School of Medicine

キーワード :

　心エコー図検査は，非侵襲的かつ簡便な検査であり，心疾患の診断，心不全の重症度・予後評価のみならず，心不全や弁膜症，抗がん剤投与の患者等における心機能の経時的観察に広く用いられている．なかでも左室容量，左室駆出率は最も重要な心機能の指標であり，通常2次元断層心エコー（2DE）の心尖2断面から，検者が左室内膜面を用手的にトレースし算出する．しかし，その正確性は検者の技量に依存し，計測誤差が容易に生じる．このため2回の検査で観察された計測値の変化が臨床的に意味のある真の変化なのか，計測誤差により生じた見かけ上のものなのかの判断は，実際の心エコー画像を並べて比較しない限り困難である．また，計測は幾何学的仮定に基づいて施行されるため，局所壁運動異常を有する症例では正確な評価が困難である．これらの諸問題を解消する方法の一つが，3次元心エコー（3DE）を用いた全自動左室容量・駆出率計測ソフトの適応である．
　近年臨床の場に登場した，3DEを用いた全自動左室容量・駆出率計測ソフトの一つであるHeart Model（Phillips）の有用性に関しては，いくつかの報告がある．Tsangらによれば，本ソフトを用いた左室容量の計測は，CMRや熟練検者による3DEの用手的トレースと強い相関を認め，全自動でのトレースラインを用手的に修正することで，よりCMRの計測値に近づくことが報告されている．また，全自動での検者間・検者内誤差は0％であり，トレースラインを修正しても10％以内であることが報告されている．Medvedofskyらによる連続300症例の解析では，90％の症例で解析が可能であり，画質不良例を除く66％の症例ではトレースラインの修正なしで，熟練検者による3DEの用手的トレースと良好な相関を示し，誤差も小さかったことが報告されている．Tamboriniらの連続200例の報告でも，95％が解析可能であり，解析時間は平均29秒であり，CMRより過小評価するものの，2DEの用手的トレースより誤差は小さく，3DEの用手的トレースとの良好な相関が示されている．いずれの報告においても，3DEを用いた全自動左室容量・駆出率計測ソフトは正確かつ迅速な左室機能評価を行うことができ，日常臨床に応用可能であると結論付けられている．
　また，本方法は1心拍での3次元画像構築による画像データを用いるため，全自動左室容量・駆出率計測ソフトを用いれば，心房細動症例においても一心拍ごとの左室容量計測ができるようになった．我々は連続10心拍以上が収集できた95例の心房細動症例において，全自動左室容量・駆出率計測ソフトの有用性の検討を行った．心房細動症例においても93％の症例で解析が可能であり，3DEの用手的トレースと良好な相関を認めた．用手的トレースでの10心拍の左室・左房容量計測は平均27分を要したが，全自動では5分で計測が可能であった．
　3DEは近年目覚ましい進歩を遂げ，ボリュームレートが保たれた1心拍での3次元画像構築が可能となり，トランスジューサーの小型化とともに簡便に，様々な疾患で検査可能となった．解析不能症例やトレースラインの修正を要する症例がある一定数存在することは間違いないが，3DEを用いた全自動左室容量・駆出率計測ソフトは，迅速かつ正確に，検者間・検者内誤差なく左室容量・駆出率を評価できる有用なツールである．