Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

特別プログラム・知を究める 循環器
パネルディスカッション 循環器3 心臓超音波検査の最新技術:本当に必要なの?

(S266)

VFMによる心腔内血流の解析:臨床的価値とその限界

Analysis of Intraventricular Blood Flow using Vector Flow Mapping: Clinical Significance and Limitation

菊池 祥平, 若見 和明, 大手 信之

Shohei KIKUCHI, Kazuaki WAKAMI, Nobuyuki OHTE

名古屋市立大学大学院医学研究科心臓・腎高血圧内科学

Department of Cardio-Renal Medicine and Hypertension, Nagoya City University Graduate School of Medical Sciences

キーワード :

 心臓の形態,壁運動や血行動態により,心腔内には各時相においてそれぞれ特徴的な血流が形成される.心腔内の血流を可視化する方法としては,Phase contrast法による心臓MRI検査や,Particle Image Velocimetry(PIV)を用いた心エコー図検査が存在するが,非侵襲的でより簡便な評価法としてVector flow mapping(VFM)が開発された.
 VFMは心腔内の血流速度をベクトルにて可視化する技術である.カラードプラ法にて超音波ビーム方向の速度成分を計測し,スペックルトラッキング法にて計測した心内膜の短軸方向の壁速度を質量保存式を用いて超音波ビーム方向に直行する速度成分とし算出することで,左室内血流の速度ベクトルの測定が角度非依存的に可能となる.心臓の形態的・機能的な変化により心腔内に形成される血流も変化するため,VFMを用いた血流情報の解析により,従来の心エコー図指標よりも鋭敏に血行動態の変化を確認できることが期待されている.
 しかしながらVFMを用いた血流解析は二次元の流れ仮定に基づく推定値であるため,本来の三次元の血流を正確に評価できるか疑問である.すでに左心室ファントムによる実験系においてレーザ流速計でPIVを用いたVFMの精度検証試験を実施し,その中で精度の信頼性は確認されているものの,二次元の画像では実際の血流の約30%の血流成分が失われ,それが計測値の誤差に繋がることが同時に指摘されている.また検者が異なると描出される断層像が一致しない可能性があるため,検者間誤差が大きくなることが懸念される.
 精度良く心腔内血流を描出できたとしても,どのようにその血流情報を臨床に応用するのか不詳である.渦の大きさや強さは心腔内の位置や時相にて刻々と変化するものの,その標準的な計測方法は確立されていない.我々は拡張期に左室内の僧帽弁周囲に形成される渦の面積と強さ(Circulation)を計測し,渦形成の機序について検討したところ,僧帽弁前尖近傍の渦の強さは同時相の左室流入血流の速度により規定され,渦の面積は左室容積と正の相関が認められた.心臓の形態や血行動態は渦の形成に強く関与しているものの,渦の計測が従来の心エコー図指標で得られる知見よりも臨床的に有益であるかは確認できていない.
 VFMにて従来の方法よりも簡便に心腔内の血流を解析することが可能となったが,VFMで得られた情報をどのように臨床へ応用するかが課題である.