Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

特別プログラム・知を究める 循環器
パネルディスカッション 循環器1 Onco-Cardiologyにおける心血管超音波検査の活用法

(S259)

トラスツズマブ治療による心毒性と心機能への影響

Cardiotoxic effects of Trastuzumab Therapy and the Influence for Cardiac Function

合田 亜希子, 福井 美保, 太田 佳宏, 増山 理

Akiko GODA, Miho FUKUI, Yoshihiro OTA, Tohru MASUYAMA

1兵庫医科大学循環器内科/冠疾患科, 2兵庫医科大学循環器内科

1Cardiovascular Division/ Division of Coronary Heart Disease, Hyogo College of Medicine, 2Cardiovascular Division, Hyogo College of Medicine

キーワード :

悪性疾患は日本人の死亡原因の一位であるが,診断・治療法の進歩により担癌患者の生命予後は近年めざましく改善した.これに伴い,がん治療関連の循環器系有害事象に対する対応が重要となっている.さらに近年,分子標的薬を含む新規抗がん薬が次々に登場し,心毒性マネジメントの重要性が増している.その中でもトラツスマブは日本人女性の罹患率第一位である乳がん患者に数多く使用され,その約5%の患者で収縮機能障害,1%の患者で症候性心不全が発生するとされている.トラツスマブによる心毒性は永続性の心筋細胞障害をきたさず,一般的に可逆性であるとされているが,心不全を発症すると原疾患の治療の遅れから,生命予後に影響をあたえることになる.よって,心毒性を早期に検出し介入することが重要となる.今回我々は,トラツスマブによる心毒性出現のリスク因子について検討し,心毒性出現群と非出現群におけるトラツスマブ投与前後の心機能の変化について検討した.67名のトラツスマブ投与患者(平均年齢58±12歳)のうち,16名(24%)に左室収縮機能障害がみられ,2名(3%)に症候性心不全がみられた.心毒性出現群では,トラツスマブ投与前の収縮期血圧が優位に高く,左房拡大を有する症例が多かった(31% vs. 10%).また,心毒性出現群ではトラツスマブ投与により優位にLVEFと左室長軸方向のLV strain(GLS)は低下したが,拡張能の指標(E/A, E/e’, DcT, LAVI)に有意な変化はみられなかった.以上より,トラツスマブによる心毒性の特徴として,潜在的に拡張障害を有する症例ほど心毒性が出現しやすいが,心毒性自体は,拡張能より収縮能の方が感度が高いことが示唆された.心毒性をきたしやすい患者を治療初期から同定し注意深く経過を追うことにより,心不全発症のリスクを低減できる可能性がある.心エコー図検査は,非侵襲的で繰り返し可能であることから,抗がん薬治療中の患者におけるスクリーニングにもっとも汎用される検査である.心機能障害を早期に発見し治療介入するために,心機能スクリーニングのアルゴリズムを確立する必要があると考える.