Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

特別プログラム・知を究める 循環器
シンポジウム 循環器3 超高齢化社会における心臓超音波検査の役割

(S251)

超高齢化社会における無症候性重症大動脈弁狭窄症の治療戦略:心臓超音波検査の役割

Prognosis and Predictors of Adverse Outcomes in Asymptomatic Patients with Severe Aortic Stenosis

谷口 直樹, 宮坂 陽子, 橘高 翔子, 前羽 宏史, 塩島 一朗

Naoki TANIGUCHI, Yoko MIYASAKA, Shoko KITTAKA, Hirofumi MAEBA, Ichiro SHIOJIMA

関西医科大学第二内科・循環器内科

Cardiovascular Division, Department of Medicine II, Kansai Medical University

キーワード :

【背景】
現在のガイドラインでは,重症大動脈弁狭窄症の手術適応の決定において症状の有無は重要な指標とされる.しかし,身体活動の低い高齢者では症状の正確な評価は困難なことも多く,実地診療で高齢者の手術適応の判断に苦慮する場面に遭遇する.
【方法】
2007年7月~2016年4月に診断した重症大動脈弁狭窄症(大動脈弁通過最大血流速度 4.0m/sec または平均弁間圧格差≧40mmHg, 大動脈弁口面積≦1.0cm² または大動脈弁口面積係数≦0.6cm²/m²)のうち,年齢70歳以上,左室駆出率50%以上の連続症例を対象とし,2017年7月まで全死亡または最終診察日までフォローした.中等度以上の僧帽弁狭窄・僧帽弁逆流,中等度以上の大動脈弁逆流を認める例は除外した.臨床症状は狭心痛,失神,心不全症状とした.診断時の症状の有無で有症状群と無症状群の2群に分け,予後を比較検討した.また無症候群において,多変量Cox比例ハザード解析により心血管イベント(心不全,心筋梗塞,大動脈弁置換術,または全死亡)の予測因子を検討した.
【結果】
重症大動脈弁狭窄症442例のうち基準を満たした257例(平均年齢 78±6歳,男性39%,大動脈弁口面積 0.79±0.20cm²,大動脈弁口面積係数 0.54±0.14cm²/m²,大動脈弁通過最大血流速度 4.1±1.0m/sec,平均弁間圧格差 42±21mmHg)のうち,123例(48%)が診断時に無症候性であった.平均観察期間 21±27ヶ月の間に113例(44%)に大動脈弁置換術が施行され45例(18%)が死亡した.有症状群と無症状群で,Kaplan-Meier法による生存率に有意差は無かった(Log-rank P=0.4).多変量Cox比例ハザード解析で年齢,性別,基礎疾患,心エコー図指標を調整しても症状は有意な予後予測因子になり得なかった(P=0.5).また観察期間中に,無症状群(123例)の66例(54%)に心血管イベントを発症した.無症状群の検討では,左室重量係数の増大(HR=1.12, 95% CI=1.04-1.21, P<0.01),大動脈弁通過最大血流速度の上昇(HR=2.10, 95% CI=1.60-2.75, P<0.001),大動脈弁弁口面積係数の低下(HR=0.68, 95% CI=0.55-0.85, P<0.001)が有意に心血管イベントに関与する因子であった.多変量Cox比例ハザード解析では,大動脈弁通過最大血流速度が独立した心血管イベントの予測因子であった(HR=2.17, 95% CI=1.64-2.87, P<0.001).
【結論】
高齢の重症大動脈弁狭窄症では,症状による手術適応の判断には限界がある.無症候性重症大動脈弁狭窄症患者において,大動脈弁通過最大血流速度は独立した心血管イベントの予測因子として有用な指標である.