高野 真澄, 高野 智弘, 藤宮 剛, 高瀬 信弥, 横山 斉

Masumi IWAI-TAKANO, Tomohiro TAKANO, Tsuyoshi FUJIMIYA, Shinya TAKASE, Hitoshi YOKOYAMA

¹福島県立医科大学集中治療部, ²福島県立医科大学心臓血管外科学講座

¹Intensive Care Unit, Fukushima Medical University, ²Department of Cardiovascular Surgery, Fukushima Medical University

キーワード :

【背景】
本邦における高齢化社会の進行により，大動脈瘤及び大動脈解離症例は年々増大傾向にある．なかでも，大動脈疾患に対する治療は，より低侵襲であるステントグラフト治療へ加速度的にパライムシフトしている．ステントグラフト治療の進歩により大動脈疾患への手術適応は大きく拡大してきている．近年，大動脈瘤に対するステントグラフト挿入術（EVAR）後患者の術後血管機能の低下が左室肥大と関連し，心血管（CV）イベントが増加することが報告されているが，術前心機能と術後CVイベントとの関係は明らかでない．
【目的】
胸部および腹部大動脈瘤患者において，術前心機能によりEVAR後CVイベント発生を予測し得る否かを検討すること．
【方法】
対象は大動脈瘤に対してEVARを施行された130例（男性 111名，平均年齢 71±6.0歳）．術前に心エコー図検査および血管機能検査（cardio-ankle vascular index: CAVI）を行い，術後慢性期におけるCVイベント出現に関連する因子を検討した．
【結果】
術後慢性期（観察期間2.9±1.7年）において， CVイベントは29名に出現した（心不全 7, 不整脈 4, 虚血性心疾患 8, 大動脈疾患 8, 弁膜症1, 脳卒中1）．CVイベント出現群（n=29）ではイベントなし群（n=101）に比べ，術前左室心筋重量係数（LVMI）が有意に大きく（106.6±5.9 vs 95.2±2.7 g/m², P＜0.01），左房容量係数（LAVI）が大きい傾向にあった（30.7±4.7 vs 21.9±1.4 ml/m², P=0.07）が，左室駆出率，E’，E/E’およびCAVIに差を認めなかった．ROC解析により，慢性期CVイベント出現を予測するLVMIのカットオフ値は104.0g/m²であり，このときAUC 0.688，感度80.0％，特異度66.7％であった．カプランマイヤー法により，LVMI＞104 g/m²群では有意にCVイベントの発生が多かった（P＜0.01）．
【結語】
大動脈瘤患者における術前LVMIは，EVAR後CVイベント発生の予後予測因子となる．