Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

特別プログラム・知を究める 循環器
シンポジウム 循環器2 心筋症の診断・治療における心臓超音波検査の活かし方

(S248)

肥大型心筋症のアルコールアブレーション:術前・術中・術後の心エコー

Echocardiography for alcohol septal ablation in patients with hypertrophic obstructive cardiomyopathy

馬原 啓太郎

Keitaro MAHARA

榊原記念病院循環器内科

Sakakibara Heart Institute, Department of Cardiology

キーワード :

はじめに
肥大型心筋症(hypertrophic cardiomyopathy : HCM)の診断には心エコー図検査が必須であり,様々な特徴的所見については成書を参照頂きたい.HCMに対するインターベンション治療は,主に左室流出路閉塞の解除を目的に行われる.左室流出路閉塞に対する治療を行うためには,左室流出路閉塞の機序について理解する必要がある.
心エコー図による診断
 まず,左室流出路を構成するのは中隔側の左室心筋と僧帽弁前尖である.通常,僧帽弁前尖は収縮期に左室流出路を広げるように動くが,左室流出路閉塞をきたす場合には弁尖が収縮期に前方へ移動(systolic anterior motion : SAM)して中隔心筋に接する.左室流出路閉塞の診断はSAMを診断することから始まる.安静時にSAMが存在する場合には運動負荷にて左室流出路閉塞が著明に増悪することがあり,運動負荷心エコー図検査は労作時の症状の原因検索に大変有用である.左室流出路閉塞には,肥大した乳頭筋が僧帽弁前尖基部へ直接付着して流出路閉塞の原因となる場合や,異常筋束が存在する場合,膜様構造物が存在する場合など,特殊な病態も,稀ならず存在する.流出路閉塞の機序を詳細に観察するためには,経食道心エコー(Transesophageal echocardiography : TEE)による観察が有用である.また,造影CT検査や心臓MRI検査からも有益な情報を得ることが出来る.こういった異常構造物が存在する場合には経皮的中隔心筋焼灼術(percutaneous transluminal septal myocardial ablation : PTSMA)は十分な効果が得られないことが多く,閉塞の解除には中隔心筋切除術(Myectomy)が必要となる.
 僧帽弁逆流はその成因がSAMによるものか,腱索断裂などを原因とした逸脱によるものか,退行性変化を原因とした肥厚短縮によるものか,弁輪拡大によるものかなどを判別する必要がある.SAM関連逆流は生理的な閉塞増強や軽減,薬物負荷により逆流程度の増減を観察できる.形態的異常を伴う僧帽弁逆流の場合には,僧帽弁形成術や僧帽弁置換術を検討する必要がある.
術中心エコー図のポイント
 コントラストを標的とする中隔枝内へ緩徐に注入し,造影される心筋を経胸壁心エコー図多断面で連続的に記録する.術中は傍胸骨左室長軸像,心尖部長軸像,心尖部四腔像,心尖部五腔像を主に用いて観察する.患者は仰臥位であり十分な画が描出できないことも多いが,なるべく中隔基部がよく描出される断面を予め探っておく.
 焼灼の際に心エコー図で記録・注目すべき点は2つある.一つ目は中隔壁の無収縮化であり,二つ目は僧帽弁前尖のSAMの改善である.中隔壁の左室内膜側まで効果的に焼灼できていれば,無収縮化を引き起こす.同様に左室流出路閉塞が解除されると,SAMの程度が改善し,同部位でのカラードプラ像で左室内通過血流シグナルの減弱が観察できる.この変化も焼灼前後の記録で明瞭にとらえることができる.
 最後に,中隔心筋のコントラストのみならず,術中に起こりうる心嚢液貯留や意図しない領域での壁運動異常などの合併症評価も心エコー図検査の大切な役割であることを忘れてはならない.
術後の経過観察
PTSMA後の左室流出路閉塞の生理的変化は段階的に起こる.心筋のスタンニングにより標的部位はアルコール注入後直ちに無収縮化し,左室流出路圧較差は減弱する.術後早期に左室流出路の圧較差がもとに戻ってしまうことがあるが,これは基部中隔に組織の浮腫が生じて閉塞が増悪するためとされている.最終的に数週間かけて,退縮と瘢痕形成という形で梗塞が完成し,標的部位の菲薄化が観察できる.自覚症状も同様に変化する可能性があり,PTSMAが成功したか否かの判断は,標的心筋の菲薄化が観察される術後3ヶ月以上経過した時点で行われるべきである.