井上 勝次, 齋藤 実, 藤本 香織, 檜垣 實男, 池田 俊太郎

Katsuji INOUE, Makoto SAITO, Kaori FUJIMOTO, Jitsuo HIGAKI, Shuntaro IKEDA

¹愛媛大学大学院循環器・呼吸器・腎高血圧内科学講座, ²喜多医師会病院循環器内科, ³愛媛県立新居浜病院循環器内科

¹Department of Cardiology, Pulmonology, Hypertension and Nephrology, Ehime University Graduate School of Medicine, ²Department of Cardiology, Kitaishikai Hospital, ³Department of Cardiology, Ehime Prefectural Niihama Hospital

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閉塞性肥大型心筋症（HOCM）症例は失神，労作時息切れが出現し，著しく生活の質が低下する．Maronらは左室内に30mmHg以上の圧較差を認めるHOCMは心臓死，心不全，Strokeの心血管イベントが増加すると報告した．左室内圧較差の軽減は，HOCMにおける治療目標であり，超音波心エコー図法による正確な左室内圧較差の評価は重要である．HOCMに対する薬物療法の第一選択薬はβ遮断薬である．HOCMは中隔心筋を中心に一次性心肥大を示し，左室流出路狭窄による二次性心肥大を来たすため，非閉塞性心筋症に比し左室重量が増加し，左室拡張障害が生じる．β遮断薬は心拍数を減少させ，左室充満時間を延長させる．また，左室過収縮を抑制し，労作時の左室内圧較差の悪化を防ぐことが期待できる．ただし，β遮断薬単独の治療では左室内圧較差を軽減することが困難なことが多く，ジゾピラミドやシベンゾリンの併用が圧較差の軽減に有効である．掘らは実験モデルで左室収縮期の圧負荷が生じると弛緩能が低下することを報告し，濱田らはシベンゾリンがHOCMにおける左室圧較差軽減に有効であること報告した．我々はHOCM症例にシベンゾリンが左室内圧較差を軽減させ，左室流入伝播速度（Vp）を改善させるが，心臓MRIで遅延造影所見が広範囲の症例ではVpの改善が乏しいことを報告した（図）．左室内圧較差は日内変動があり，運動時や食後に増悪することがある．薬剤抵抗性HOCMに経皮的中隔心筋焼灼術（PTSMA）の治療を行い，食後の全身倦怠感と左室内圧較差が著明に改善した1例を経験した．経過良好であったが，治療からPTSMA治療から1年後に致死性心室性不整脈が出現した．植え込み型除細動器による治療にアミオダロンの導入を行い，現在経過良好である．PTSMAは肥大心に瘢痕組織を作るため，不整脈リスクを悪化させる可能性があり注意が必要である．また，我々はHCMにおける左房機能に注目し，HOCM例や左房の能動的機能が低下した例では心不全や心房細動の発症が多いことを報告した．HCMをベースとした心不全や心房細動の併発は，高率に血栓塞栓症を発症するため抗凝固療法を適切に使用する必要がある．HCMにおいて今後ますます心エコーによる左室，左房，さらには右室を含めたglobalな心機能評価が望まれる．