新田 尚隆

Naotaka NITTA

国立研究開発法人産業技術総合研究所健康工学研究部門

Health Research Institute, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST)

キーワード :

【目的】
本学会の頸動脈IMT評価法の標準的評価法の改定のための小委員会において，頸動脈内中膜厚（intima-media thickness：IMT）計測では0.1mm単位の精度を要することが確認されている．一方，シリコン製ファントムを用いた精度評価では^1），IMT計測値に装置間差異が存在する可能性が示唆された．IMT計測における市販装置間の差異を検証するためにはファントムの使用が有用であるが，各社装置の計測アルゴリズム等の差異に対応可能なファントムについては，これまであまり検討されていなかったように思われる．そこで本研究では，頸動脈 IMT 計測における装置間差異の検証に寄与するべく，頸動脈内中膜を模擬するIMTファントムを製作した．
【方法】
これまでに，平板状及びチューブ状のIMTファントムを製作した．図1に，平板状IMTファントムの一例を示す．先行研究^1）で使用されたファントムの構造に基づき，内中膜をシリコンシートで模擬した．Bモード画像上でのIMTは，実際のシリコンシート厚よりも厚く表示されることになるが，IMTの真値（参照値）は，シリコンの音速と超音波診断装置の設定音速との差異を考慮して決定した．さらに，各社装置のオートトレース計測に対応するべく，生体に近い輝度分布を再現する周囲構造とする必要がある．本ファントムでは，内腔側エコー振幅 ＜ 外膜側エコー振幅となるような固有音響インピーダンスの調整として，内腔側のシリコン（5 mm厚）と外膜側のシリコンスポンジ（6.5 mm厚）でIMTを挟み込むようにした．血管部位に至る途中の伝搬経路は，生体中のビームフォーミングに近くなるように，ポリアクリルアミドで満たした．また，ファントムを収納するアクリル製の容器（100 × 100 × 44 mm）底面には，厚さ10 mmの吸音板を配置した．
【結果】
図2に，製作したファントムの断層像とIMT部分のエコーのプロファイルを示す．内腔側エコー振幅 ＜ 外膜側エコー振幅が再現されていることが確認された．また本ファントムは，計測に協力いただいた全社機種においてオートトレース計測が可能であった．
【結論】
本研究では，頸動脈 IMT 計測における装置間差異の検証に寄与するべく，頸動脈内中膜を模擬するIMTファントムを製作した．その結果，全社機種においてファントムのオートトレース計測が可能であった．
【文献】
1）濵口, 福住, 高坂, 渡辺, 松尾, 第86回日超医抄録集, 86-血-O04, 2013.