英文誌(2004-)
特別プログラム・知を究める 基礎
シンポジウム 基礎7 超音波医学におけるAI研究の現状と展望
(S232)
医療情報学と病院情報システムの現状からみる超音波画像とAIの連携可能性
The key component of successful collaboration of ultrasound images and Artificial Intelligence
木村 映善
Eizen KIMURA
国立保健医療科学院
National Institute of Public Health
キーワード :
AI(Artificial Intelligence)の応用は破竹の勢いで広がっており,医療でもAIと医師の成績を比較し,優秀なスコアを出した技術は医療機器として組み込んでいくという動きがでています.しかし,現在医療への応用が進められているAIはジョン・サールのいうところの「弱いAI」に過ぎません.人間と同等な因果関係の考察ができ,あらゆる要求に対して汎用的に対応できるとされる「強いAI」の域に達していません.「弱いAI(以下AI)」の中核技術となっているのが,ニューラルネットワークの進化系であるDeep Learning(DL)です.DLは「教師あり学習」に分類されます.DLに正誤の情報あるいは予測値として望ましいとされるデータがついた学習データを渡して,未知の情報から適切に結果を予測できるように学習させます.画像診断であれば,医用画像(予測材料)と診断(予測対象)のペアの情報が必要です.また精度のよい予測ができるためには膨大な症例数を学習させることが必要です.数万症例以上は欲しいところです.この2つの要件(学習データの準備と,十分な件数の学習データ)を単独でクリアできる医療機関はなかなかありませんので,複数の医療機関が臨床研究の枠組みでデータを持ち寄り,症例数を稼ぐようにしています.課題が残るのが予測材料と予測対象で構成される学習データの準備です.皆様もご承知のとおり,電子カルテには色々な情報が入っていますが,データ分析(二次利用)に使える状態にはなっていません.予測材料の観点から眺めますと,例えば手術に関する記録は紙の記録をスキャンしたもの,電子化されていても各診療科での手術記録の様式や保管場所がバラバラです.多くは自然文章の記述によるため,先生によって医学用語の書き方にバラツキがあります.予測対象となることが多い病名についても保険請求の都合上でつけられていたり,転帰が適切に管理されていないものが多数あったりします.このような状態では分析対象としてのデータを収集することができません.比較的定型的に記載されているレポートと画像が揃っている放射線画像の読影レポートや眼底検査等からAIの導入が試みられたのは偶然ではありません.比較的利用しやすい形でデータが集められる所から着手されたというのが実情です.翻って,超音波診断はいかがでしょうか.当院では予測材料となる超音波画像は,Claioで管理います.医療機関によってはPACSで管理さしているところもあります.しかし,超音波画像以外の予測材料となるデータや,予測対象となる診断名などはいかがでしょうか.超音波画像に関する診断や定量的測定について定型的な入力ができるレポートが提供されているところもありますが,先生によってはし診断等は電子カルテのSOAP欄に記載されている方もいらっしゃいます.もし,AIの超音波画像への適用を試みるのなら,診断や測定の情報について定性化,標準化をすすめ,非DICOM画像のシステムはDICOM形式ファイルを利用するように移行していく必要があります.予測対象となるデータについて学会で定義し,収集するためのスキームを確立する必要があります.我が国では診療や診療情報の管理を効率化するための電子化は進められてきましたが,データを医療の診断支援に活用するという視点から検討すると,医療情報システムを改善する余地は依然として残されています.超音波診断にAIを活用するための道程について,医療情報学的見地から提言させて頂きます.