英文誌(2004-)
特別プログラム・知を究める 基礎
シンポジウム 基礎4 血流速度ベクトルを推定する技術でカラードプラを越える
(S221)
コントラスト剤をスペックルトラッキングする方法
Tracking bubbles for measuring blood flow velocities
上嶋 徳久
Tokuhisa UEJIMA
心臓血管研究所循環器内科
Department of Cardiology, The Cardiovascular Institute
キーワード :
一般的にecho PIVと呼ばれるコントラスト剤をトラッキングして血流ベクトルを得る方法は,早くは1990-2000年代に血管に対する応用から始まりました.血管は表在から浅いので超音波でも200-500fps程度の時間分解能を確保できます.速度が速く,ひずみの強い流体をトラッキングするには充分です.ファントム実験で精度が検証されており,分岐部における渦形成も可視化できると報告が複数なされています.ただ臨床応用はあまりされておらず,臨床的な価値があるか否かは不明です.
心臓への応用は2000年代後半から2010年代にかけて広がりました.診断深度が深いため断層像で60-80fps程度しか時間分解能が稼げませんが,PIVのトラッキング能力とノイズ除去の技術向上により左室内の渦を可視化することが可能になりました.ゴールドスタンダードであるlaser PIVとの比較ファントム実験では,全体的な流れの特徴は捉えられているものの,細部では渦の形や強度に差異がありました.また,別のファントム実験で,速度が60cm/s以上の動きには追従できないことも明らかになりました.そのような限界はあるものの,シーメンス社の超音波診断装置に搭載され,臨床応用は進んでいきました.渦形成の疾患特異性は,弁膜症に始まり,虚血性心疾患や心不全で明らかになりました.心不全に対する応用は,渦形成のみならず,左室内圧格差や粘性損失の定量化まで進み,臨床的な価値を示すまでになりました.