Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

特別プログラム・知を究める 基礎
シンポジウム 基礎1 超音波照射による生体への影響と安全性

(S211)

高周波超音波の照射に伴うDNA分子の二重鎖切断

Double-strand break of DNA molecule caused by high frequency ultrasound

吉田 憲司, 石原 和也, 秋山 いわき, 吉川 研一, 渡辺 好章

Kenji YOSHIDA, Kazuya ISHIHARA, Iwaki AKIYAMA, Kenichi YOSHIKAWA, Yoshiaki WATANABE

1千葉大学フロンティア医工学センター, 2同志社大学生命医科学部

1Center for Frontier Medical Engineering, Chiba Univ., 2Faculty of Life and Medical Sciences, Doshisha Univ.

キーワード :

【目的】
近年,超音波診断装置の動作モードの多様化に伴い超音波出力は増加傾向にあり,音圧,パルス長,パルス繰り返し周波数等のパラメータと超音波の生体作用との関係性についてより深い理解が求められている状況である.細胞レベルでの生体作用としてDNA分子の二重鎖切断に焦点をあてる.DNA分子の二重鎖切断は細胞死に直結するため,修復可能な損傷である塩基の置換,架橋,一本鎖切断と比べて深刻な損傷としてしられている.先行研究のin vitro実験において数十kHzの低周波超音波の場合ではキャビテーション発生閾値近傍もしくはそれ以上の出力においてDNA分子の二重鎖切断が起こることを確認している.今回の検討では,MHz帯の超音波を使用し,DNA分子の切断頻度と音圧,パルス長の関係性について整理し,MI値が1.9以下においてDNA分子の切断が発生するかどうかを検証した.
【対象】
T4ファージDNA(166 kbp,57 μm)(9 μL)および脱気したイオン交換水(846 μL),緩衝溶液であるTris-HClを45 μL添加し,濃度0.1 μMとなるように調整した溶液を試料とした.
【方法】
水槽に脱気水を満たし,底部から15 mmの位置に円筒形のシリコンチューブ(外径3 mm,内径2 mm)を設置する.チューブ上方に共振周波数が1 MHzの凹面型振動子(ジャパンプローブ株式会社, 1Z40I R50, 口径 40 mm, 焦点距離 50 mm)を設置し,パルス繰り返し周期1 msで超音波を照射する.MIは0-4.5の範囲で設定し,パルス長は5, 10, 100 μsとした.超音波照射前に20 μLのDNA溶液をシリンジポンプ(アイシス, Fusion 200)を用いて振動子の焦点へ送液し,照射後にポンプを再稼動し,チューブ内の液体を反対方向に押し出し,回収した.超音波照射後の試料液体を蛍光顕微鏡下で観察し,DNA分子長のアンサンブル平均<L>を評価した.超音波を照射していない場合のアンサンブル平均<L0>をあわせて評価することで,二本鎖切断の頻度を定量した.
【結果】
パルス長を長くするとDNAの二重鎖切断が発生する閾音圧が減少することが確認され,キャビテーション現象の発生原理から想定される傾向となった.閾音圧に着目すると,いずれのパルス長でもMIが1.9以下ではほとんど二重鎖切断が確認されなかった.
【結論】
 周波数が1 MHzの超音波の影響を検討した今回の結果より,機械的作用の閾値とされるMIが1.9以下ではDNA分子の二重鎖切断はほとんど生じていないと考えられる.高周波数になるに伴いキャビテーションの効果が低減することを考慮すると,1 MHz以上の高周波超音波ではキャビテーションの機械的作用による二重鎖切断の可能性は低いのではないかと考えられる.