Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

特別プログラム・知を究める 基礎
シンポジウム 基礎1 超音波照射による生体への影響と安全性

(S210)

音響放射力インパルスが肺に及ぼす影響-ウサギを用いた動物実験-

The effect of ultrasound with acoustic radiation force on rabbit lung tissue

高山 法也, 笹沼 英紀, 利府 数馬, 高野 わかな, 石黒 保直, 秋山 いわき, 谷口 信行

Noriya TAKAYAMA, Hideki SASANUMA, Kazuma RIFU, Wakana TAKANO, Yasunao ISHIGURO, Iwaki AKIYAMA, Nobuyuki TANIGUCHI

1自治医科大学臨床検査医学, 2自治医科大学消化器一般外科, 3同志社大学生命医科学研究科

1Department of Clinical Laboratory Medicine, Jichi Medical University, 2Department of Surgery, Jichi Medical University, 3Medical Ultrasound Research Center, Doshisha University

キーワード :

【背景】
 音響放射力インパルス(ARFI: Acoustic Radiation Force Impulse)を伴う超音波は,肝臓や乳腺領域において既に臨床応用されている.肺は,肝臓・心臓・乳腺に近接していることから意図しない超音波照射がおよぶ可能性がある.そのうえ微小気泡である肺胞の集合体である肺では,キャビテーションを介してより強い生体反応が惹起される可能性がある.我々はウサギを用いた実験でARFIを伴う超音波照射が肺に損傷を引き起こす可能性があることを報告してきたが,これまで使用してきた振動子ではBモード画像を確認しながら照射することができなかったため照射部位と障害部位が一致しているかの確証が得られなかった.今回,Bモード画像を見ながら焦点深度を調整して照射できる動物実験用ARFIシステムを導入したためその実験結果を報告する.
【方法】
ウサギ(日本白色,オス,3kg)を用いて以下の方法で5例の実験を行った.
全身麻酔下にウサギを仰臥位とし,胸腹部をバリカン,除毛クリームを用いて除毛した.また呼吸コントロールのために気管切開を施行し,気管チューブを留置した.ARFIプローブ(5.2MHz linear probe)のBモードにて体表から左右の①前胸部肋間と②上腹部肋弓下(経肝的)からそれぞれ肺表面を描出し,照射部位を決定した.その後呼吸を停止させた上で,同部位に照射を行った.照射の条件はMechanical Index(MI): 0.8~1.2,Pulse duration(PD): 0.3ms or 1.0ms, focus:(①10mm, ②20mm or 30mm),照射回数: 30回,照射間隔: 3sとした.犠牲死後,両肺を摘出し病理学的評価を行った.
【結果】
いずれの症例でも気胸や血胸は認めなかった.肉眼所見としては,照射した部位に一致して肺表面にred spot(2~10 mm)を認めた.所見が得られたのは①では10照射中7か所で,②では10照射中6か所であった.いずれも病理組織所見(HE染色)としては,照射部位の胸膜直下に肺胞出血を認めた.
【考察】
 診断用超音波でも照射により肺損傷が起こり得ることが既に動物実験において報告されており,その発生機序としてはキャビテーションの影響が大きいと考えられている.臨床利用されている超音波診断装置は最大音響出力がMI 値1.9を超えないように制御されているが,ARFIを伴う超音波でも同様の基準が適応されるのが適切かどうかに関しては未だ不明である.今回の実験では,これまで我々が報告してきた照射条件(PD 10ms)よりさらに臨床条件に近いPD 0.3~1.0msで照射し肺損傷を来した.ARFIを伴う超音波は,従来の診断用超音波パルスより持続時間が長いこと,肺表面で位相反転を起こすことなどが関係し,規定よりも低いMI値でも肺損傷を来したのではないかと推察された.今後は照射の精度を上げ,症例数を増やすことで肺損傷を来すMI値の閾値について検証していく予定である.
【結語】
本動物実験からARFIを伴う超音波により,臨床に近い条件下でも肺損傷を来すことが明らかになった.ヒトにおいても乳腺や肝臓領域におけるARFIエラストグラフィ施行時には,胸壁や肝を介して意図せず肺に照射される可能性があることを認識する必要がある.今後,動物実験で傷害の閾値を下げるとされる造影剤の負荷を含め損傷が惹起されるかを検証していきたい.