Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

特別プログラム・知を究める 領域横断
パネルディスカッション 領域横断1 Point-of-care USのプロトコルを考える

(S202)

腹部領域におけるPOCUSのプロトコールを考える

Point-of-care Ultrasound Protocol for the Patients with Acute Abdominal Pain

畠 二郎, 今村 祐志, 眞部 紀明

Jiro HATA, Hiroshi IMAMURA, Noriaki MANABE

川崎医科大学検査診断学

Dept. of Clinical Pathology and Laboratory Medicine, Kawasaki Medical School

キーワード :

疾患のスクリーニングとしての超音波検査,有症状の患者に対する精査の手段としての超音波診断に加えて,近年ベッドサイドにおける診療補助としての超音波の応用がPoint of care ultrasound(以下POCUS)として注目されている.FAST(Focused Assessment with Sonography for Trauma)やRUSH(Rapid US for Shock and Hypotension)などが良く知られたプロトコールであり,基本的にはある病態に対するトリアージ的なプロセスとして解釈される.
 腹部領域におけるPOCUSのプロトコールを考える場合まずその要件について整理しておく必要がある.現時点で一定の見解はないが,①特定の病態を想定する,②比較的短時間で完結する,③基本的にオンオフで判断でき,詳細な画像解析を必要としない,④半日程度のトレーニングで習得可能である,⑤ハイエンド機を必要としない,といった点がおそらく共通の認識ではないかと思われる.
 それらを鑑み腹部領域においては以下を提案するが,学会での議論によりさらに完成度の高いプロトコールとなることを期待する.まず基本的概念として,①急性腹症を対象とする,②約5分以内で終了できる,③オンオフあるいは参考値としての基準値を設定する,④約60分の座学と2時間程度のハンズオン講習で習得可能,⑤中級機程度の性能を有する機器で施行可能,とする.さらに基本方針として⑥比較的頻度の高い疾患のスクリーニングを目的とする,⑦B-mode以外の機能を使用しない,⑧特異度より感度を優先する,といった条件を追加した.
 最も重要な事項は対象疾患の決定であるが,group A:急性胆嚢炎,尿管結石嵌頓,腸閉塞,腹部大動脈瘤,腹部外傷などにおける腹水,消化管穿孔のfree air,骨格筋損傷などは検出とともにrule outも可能な疾患と考える.それに対しgroup B:急性膵炎,急性胃腸炎,急性虫垂炎は,必ずしも超音波で否定することが容易でない,あるいは描出手技の習得に時間がかかるなどが危惧されるため,検出できれば異常と判定するが,検出できない場合に疾患のrule outは行わない.さらにgroup C:腹水穿刺などにおけるガイドとしての用途も存在する.
 以上を網羅しかつ簡便なプロトコールとして,次の8断面を順に走査する.①心窩部縦走査:大動脈,胃,膵臓,free air,下大静脈,②右肋間走査:胆嚢,胆管,free air,③右側腹部縦走査:右腎,腹水の有無,④右腹部横走査:上行結腸(および虫垂),腹壁,⑤下腹部正中縦走査:膀胱,腹水,回腸,⑥左腹部横走査:下行結腸,腹壁,⑦左側腹部縦走査:左腎,脾臓,膵尾部,⑧腹部正中横走査:小腸,腹壁,と上腹部から左回りに一周するような走査部位としている.
 腹水やfree air,尿管結石嵌頓による腎盂尿管拡張などはオンオフの判定となるが,消化管については胃壁で6mm,他の部位で4mm,虫垂は短軸直径6mm,小腸の管腔直径は3cm,胆嚢は横径3.5cm,肝外胆管は7mmをカットオフ値とし,これらを超えるものを異常と判定する.ただしMurphyサイン陽性など,他の異常所見が検出される場合にはこの数値にこだわる必要はない.注意点としてPOCUSのみで治療方針が決定できる疾患もある一方でさらなる精査を要する場合もあり,その適応を的確に判断する必要があること,消化管虚血などPOCUSでは診断困難かつ重篤な疾患も存在していることが挙げられる.
 以上のプロトコール案の臨床的有用性については今後の検討が必要であるが,急性腹症の診断におけるfirst lineとして超音波を位置づけることは被曝軽減や医療経済上も重要であり,救急医や研修医などへの啓蒙も推進する必要があると思われる.