Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

特別プログラム・知を究める 領域横断
シンポジウム 領域横断2 超音波によるtheranostics(診断と治療)の広がり

(S184)

造影と治療における微小気泡のダイナミクスの観察

Observation of microbubble dynamics in applications of contrast imaging and therapy

工藤 信樹

Nobuki KUDO

北海道大学大学院情報科学研究科

Graduate School of Information Science and Technology, Hokkaido University

キーワード :

【目的】
 超音波造影法の開発では,コントラストの高い造影画像を得るための画像化手法や超音波の照射条件に関する検討が広く進められている.また,微小気泡は,生体局所に薬剤を送達するための薬剤キャリアとしての役割が注目され,この応用における効果的な超音波照射法に関する検討が行われている.本発表では,それぞれの応用について,生体内を想定した条件における微小気泡のダイナミクスを高速度顕微観察によって検討した結果を報告する.
【超音波造影】
 血管内に投与された造影剤気泡のほとんどは毛細血管内に存在する.このような条件にある微小気泡のダイナミクスを検討するため,細血管のファントムを作成し気泡のふるまいの高速度顕微観察を行った.血管ファントムは,生体にほぼ等しい硬さを持つアクリルアミドゲル(ヤング率2.2 kPa)を用いて作製した.直径30μmのタングステン線を通した型にアクリルアミドゲル溶液を満たし,ゲル化後にタングステン線を引き抜くことで管腔構造を形成した.管腔内にバブルリポソーム懸濁液を導入し,中心周波数1 MHz,最大負圧0.2〜1.0 MPaのパルス超音波を照射し,気泡の運動を高速度カメラ(HPV-X2,島津製作所)を用いて1000万コマ毎秒の速度で256コマ撮影した.その結果,膨張する気泡による管腔の拡張や,収縮する気泡による管壁の引っ張り変形が観察され,生体内での気泡のふるまいを検討する上で本観察が大きな役割を果たすと考えられた.
【ソノポレーション】
 我々は,あらかじめ気泡を細胞に接触させた状態でパルス超音波を照射することにより膜損傷を誘導できることを報告し,その発生機序に関する検討を行っている.生体を模擬するアクリルアミドゲル製の培養足場(ヤング率2.2 kPa)上に播種したヒト前立腺がん細胞(PC-3)に微小気泡を付着させ,細胞と気泡が生じる相互作用を側方から高速度顕微観察した.超音波照射条件としては,高音圧条件(最大負圧0.6 MPa,波数3波)と低音圧条件(最大負圧0.1〜0.2 MPa,波数50波)の2条件を用いた.
 実験の結果,高音圧条件では,観察細胞の97%(28/29体)で,気泡が大きく膨張・収縮を繰り返しながら細胞から離れていく現象が観察された.この気泡の動きは細胞に大きな変形をもたらし,細胞膜に局所的な変形が生じる場合には高い割合で細胞膜の損傷が認められた.細胞膜損傷は観察した全細胞の42%に生じた.低音圧条件では,気泡が細胞から離れていく頻度が35%に低下した.気泡が細胞表面に接触した状態を保ちながら多数回膨張・収縮を繰り返す場合には,気泡が細胞と接触を保ったまま移動する現象が観察され,そのような例では細胞膜損傷が高頻度に観察された.損傷の発生は全細胞の43%に見られ,照射条件が全く異なる高音圧条件とほぼ等しい値となったことから,音圧によって膜損傷を生じる機序が異なることが示唆された.
【まとめ】
 微小気泡を造影画像の作成と治療効果の誘導の両面で利用する場合,実際の生体内での気泡のふるまいを理解することは非常に重要である.我々の開発した高速度顕微撮影システムは,生体を模擬した条件での微小気泡のダイナミクスの解明に有用である.本研究の一部は,科学研究費補助金(基盤研究A,17H0086407)により行われた.