Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2018 - Vol.45

Vol.45 No.Supplement

特別プログラム・知を究める 領域横断
シンポジウム 領域横断1 超音波で全身を見る

(S180)

全身を見る超音波での心臓の見かた

How to use focused cardiac ultrasound (FoCUS)

山田 聡, 林 大知, 更科 美羽, 辻永 真吾, 岩野 弘幸

Satoshi YAMADA, Yamato HAYASHI, Miwa SARASHINA, Shingo TSHUJINAGA, Hiroyuki IWANO

北海道大学大学院医学研究院循環病態内科学

Department of Cardiovascular Medicine, Faculty of Medicine and Graduate School of Medicine, Hokkaido University

キーワード :

Point-of care ultrasound(POCUS)の心臓版として米国心エコー図学会(ASE)が提唱したのがfocused cardiac ultrasound(FoCUS)である(J Am Soc Echocardiogr 2014;27:683.e1).検査室で時間をかけて行う系統的心エコー検査のフルスタディー(comprehensive echocardiography, comprehensive TTE)とはまったく異なり,comprehensive TTEの観察・計測項目を減らして部分的な検査を行うlimited TTEとも異なる概念である.救急集中治療やプライマリケアの領域で,心エコーを専門としない医師が,ベッドサイドで短時間に全身を見る検査の一環としてFoCUSが行われ,限られたアプローチと断面のみで項目を絞った問題解決型の評価を行い,即座に次の検査ステップや治療を決断する判断材料とするものである.原則として計測は行わず,心嚢液あり/なし,左室拡大あり/なしなどの定性的評価のみを行う.FoCUSは,その内容も,法律的にもcomprehensive TTEやlimited TTEとは異なるものであり,これらの代用にもならない.したがって,FoCUSに適した臨床場面で,FoCUSの限界を熟知したうえで使用されるべきであり,また,FoCUSで何らかの所見が得られた場合には,その後できるだけ早期に検査室でcomprehensive TTEが行われなければならない.
FoCUSでは,comprehensive TTEで用いられるすべてのアプローチと断面を観察せず,限定したアプローチと断面のみを用いる.FoCUSの3つのアプローチは,1)心窩部,2)傍胸骨(胸骨左縁),3)心尖部であり,5つの断面は,1)心窩部四腔断面,2)心窩部下大静脈断面,3)傍胸骨左室長軸断面,4)乳頭筋レベル左室短軸断面,5)心尖部四腔断面である.心窩部アプローチは,心停止患者に対する心臓マッサージを中断することなく観察可能であり,蘇生現場では優先すべきアプローチである.傍胸骨および心尖部アプローチでは心室,心房と各弁を観察できるが,心臓マッサージ中にはマッサージの合間のパルスチェック時などに観察する.
FoCUSは,診断のターゲットを明確化して検査を行う.高度の心室機能障害,循環血液量の減少,心タンポナーデなどはショックや心停止の原因となり,早急な治療介入を要するので,優先すべき項目である.そこで,前述のASEによる2014年の推奨では,①左室のサイズと収縮機能,②右室の収縮機能,③血管内ボリューム,④心嚢液および心タンポナーデの有無を優先すべき診断ターゲットにあげている.その他に,⑤慢性心疾患の全般的な所見として左室の拡大や肥大,右室肥大,心房の拡大など,⑥弁膜疾患の全般的な所見として弁尖の逸脱,肥厚,腫瘤の付着など,さらに,⑦大きな心内腫瘤(mass)をターゲットとする.検査に当たっては,これらの所見を「あり/なし」で判断し,むやみには計測を行わないことが重要である.例えば,急性心筋梗塞が疑われる患者において,どこにどの程度の局所壁運動異常があるかの詳細な観察はFoCUSの範囲を超えたものである.FoCUSでは,あくまでも,局所壁運動異常が「ある」か「ない」か,左室全体の収縮不全が「ある」か「ない」かを判断し,冠動脈造影の要否を即断し,呼吸・循環管理の方針を決定することに重きを置く.