英文誌(2004-)
特別プログラム・知を究める 領域横断
シンポジウム 領域横断1 超音波で全身を見る
(S180)
腹痛を伴う消化器領域疾患の超音波診断
Diagnose gastrointestinal disease with abdominal pain by ultrasound
関口 隆三, 長基 雅司, 五味 達哉, 渡邊 学, 藤崎 純
Ryuzo SEKIGUCHI, Masashi NAGAMOTO, Tatsuya GOMI, Manabu WATANABE, Jun FUJISAKI
1東邦大学医療センター大橋病院放射線科, 2東邦大学医療センター大橋病院消化器内科, 3東邦大学医療センター大橋病院臨床生理機能検査部
1Department of Radiology, Toho University Ohashi Medical Center, 2Department of Internal Medicine, Toho University Ohashi Medical Center, 3Department of Physiological Examination, Toho University Ohashi Medical Center
キーワード :
【はじめに】
腹痛は消化器内科を受診する患者の約25%を占めており,担当医が超音波検査を依頼する主訴(症状)の代表である.腹痛の原因は,胃や腸,胆嚢や膵臓などの消化器の器質的および機能的疾患や,腎・泌尿生殖器や大血管系などの疾患,代謝性疾患などの全身性疾患,心因性による場合など,多岐にわたる.ここでは,腹痛を主訴とする頻度の高い消化器疾患の超音波所見について症例を通して解説する.
【検査時の注意点】
患者の痛みが重篤でなく,コミュニケーションが図れる場合は,下記の4点を検査時に把握するように心がける.
① 痛みの部位-病変の存在部位,疾患を推測するのに極めて大切.
② 痛みの性状 -強さ,発生の仕方,間歇性か持続性か,放散痛の有無など.
③ 随伴症状-身体所見,筋性防御,圧痛の有無など.
④ 増悪寛解因子-空腹時の心窩部痛(十二指腸潰瘍),脂肪食後の憎悪(胆石)など.
【痛みの部位と疾患,頻度】
① 上腹部痛
頻度高-急性胆嚢炎,胆石症,など.
頻度少-急性膵炎,胃拡張,胃十二指腸穿孔,ヘルニア,腎結石,心筋梗塞,肺梗塞,など.
頻度稀-胆嚢穿孔,脾梗塞,腎静脈血栓,など.
○ 急性胆嚢炎
【原因】
多くは胆嚢頚部や胆嚢管へ結石が嵌頓することによる胆汁の通過障害のより生ずる.
【超音波所見】
胆嚢腫大,胆嚢壁肥厚,壁内に透亮帯,内腔の胆泥,結石(嵌頓像),胆嚢周囲の液体貯留,膿瘍形成,等.
○ 急性膵炎
【原因】
飲酒(約40%),胆石(約25%),ERCP検査などにより,膵内の消化酵素が活性化され引き起こされる膵臓の自己消化.
【超音波所見】
ごく初期には膵周囲のわずかな腹水しか認められないことがある.経時的(1-2日後)に観察すると仮性嚢胞形成など,所見が顕著に見られてくることが多い.
② 下腹部痛
頻度高-急性虫垂炎,憩室炎,など.
頻度少-ヘルニア,腎疝痛,など.
○ 憩室炎
【原因】
憩室内に腸内容が停滞し,粘膜の損傷,感染を来たして生じる憩室周囲炎.
【超音波所見】
壁肥厚と壁外に突出する憩室の描出.周囲脂肪織の著明な肥厚像.
③ 局在がはっきりとしない痛み
頻度高-胃腸炎,便秘,イレウス(機械性,麻痺性),腹膜炎,など.
頻度少-腸間膜動脈閉塞,下行大動脈瘤,など.
頻度稀-腹腔内出血,など.
※疝痛
腹部の空洞臓器(胃や腸など)や管状臓器(胆道や腎盂など)の壁をなす平滑筋の攣縮に起因する痛みで,発作的に起こり数分間から数時間の間隔で周期的に反復し,発作が終われば疼痛は消失する.疼痛の強さは激痛から鈍痛に至るまでさまざまで,時に痛みが激しいためにショック状態となることがある.(例:胆石,急性虫垂炎,大腸憩室炎)
【おわりに】
腹部超音波検査は侵襲が少なく,簡便で,何度でも繰り返し行うことができ,各種疾患の確定診断や治療法選択に有用な情報を与えてくれる非常に有用な検査である.病変を拾い上げるためには疾患画像所見を覚えることも大切だが,きちんとした系統的な走査法や解剖学的知識を身に付けておくことがより確実で正確な診断を行うためには重要である.
【参考文献】
1.症状からアプローチするプライマリケア,日本医師会学術企画委員会編,日本医師会雑誌 140,2011.
2.内科診断学(第3版),福井次矢/奈良信雄編,医学書院,東京,2016.
3.USスクリーニング,竹原靖明監修.医学書院,東京,2008.