Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

一般ポスター 血管
血管

(S689)

ネフローゼ症候群の診断を契機に発見された門脈内血栓および左腎静脈内血栓の1例

A case of portal vein and Left renal vein thrombi complicated with nephrotic syndrome

尾形 裕里, 古川 優貴, 大原 未希子, 山本 多美, 前田 るりこ, 富田 文子, 堀端 洋子, 西上 和宏

Yuri OGATA, Yuki FURUKAWA, Mikiko OOHARA, Tami YAMAMOTO, Ruriko MAEDA, Ayako TOMITA, Youko HORIBATA, Kazuhiro NISHIGAMI

1社会福祉法人恩師財団済生会熊本病院中央検査部, 2社会福祉法人恩師財団済生会熊本病院心臓血管センター, 3社会福祉法人恩師財団済生会熊本病院集中治療室

1Physiological Laboratory, Saiseikai Kumamoto Hospital, 2Cardiovascular Center, Saiseikai Kumamoto Hospital, 3Intensive Care Unit, Saiseikai Kumamoto Hospital

キーワード :

【はじめに】
ネフローゼ症候群は腎臓の糸球体における毛細血管障害により,高度蛋白尿とそれに伴う低蛋白血症および全身浮腫が起こる病態の総称である.特に急性期は全身浮腫が著明で,合併症として血栓症を認めることがある.今回我々は,ネフローゼ症候群の診断を契機に発見された門脈内血栓および左腎静脈内血栓の1例を経験したので報告する.
【症例報告】
症例 60代女性
主訴 下肢浮腫 
既往歴 虫垂炎 腎疾患や心疾患の指摘なし
現病歴 2週間前から下肢浮腫を自覚していた.その後,腹部膨満感も感じるようになり,近位を受診した.尿検査で蛋白尿を認め,ネフローゼ症候群が疑われたので当院紹介となった.
入院時身体所見
体重39Kg 体温37.1度 心拍数89/分(整) 血圧103/62 SpO2 98% 
意識清明 頸部リンパ節腫脹なし 心雑音なし 呼吸音清 肺野にラ音聴取せず
両側下腿部の浮腫あり 圧痕あり
入院時検査所見
胸部X線は心胸郭比41%と心拡大所見なし.また,左胸水を認めた.
心電図は洞調律で,V1~V3でT波の陰転化を認めた.
血液生化学検査では高カリウム血症,低アルブミン血症,肝胆道系酵素の上昇を認めた.
凝固検査ではフィブリノーゲン,FDP,D-dimerの上昇とAT-Ⅲの低下を認めた.
抗核抗体,抗セントロメア抗体は陽性,HBs抗原およびHCV抗体は陰性であった.
尿検査では高度の蛋白尿,潜血を認めた.
画像検査所見 
下肢浮腫の原因精査で施行した血管エコーで門脈と左腎静脈に血栓を認めたため,ヘパリンとプレドニンを投与開始したのち,血栓の経過観察を行った.
血栓は第10病日から縮小した.門脈内血栓は辺縁に高エコー部分を認めたが,性状はほぼ変化なく均一であった.中枢端はわずかに揺れていた.左腎静脈内血栓は溶解が疑われる低エコー領域を認めた.第20病日の検査で門脈内血栓は一部の血管壁に付着していただけで浮遊血栓となっていた.左腎静脈内血栓は索状に器質化した.27病日の検査で門脈内浮遊血栓はさらに縮小した.左腎静脈内血栓は紐状に退縮した.
心エコー検査では,入院時検査で左室拡張末期径35mm,左室収縮末期径22mmと心拡大所見なし.心室中隔および後壁の壁厚は8mmであった.modified Simpson法の左室駆出率は67%で左室収縮は良好であった.また,軽度の右心系拡大を認め,三尖弁逆流から算出した推定肺動脈圧は40mmHgであった.
第3病日に施行したCT検査では血管エコー同様,門脈および左腎静脈に血栓を認めた.また右下葉に限局した肺塞栓症を認めた.
【考察】
ネフローゼ症候群は血栓形成のリスクが高い疾患であるが,腎静脈内血栓および門脈内血栓などを伴った多発血栓の報告例はない.同疾患における血栓形成のメカニズムは複雑であり,検査を行う際には多発血栓の存在も念頭に置かなければならない.ネフローゼ症候群で浮腫の原因精査を行う際には,腹部血管の観察も行うなど広い範囲での検索が必要であることを経験した教訓的症例であった.
【結語】
ネフローゼ症候群の診断を契機に発見された門脈および左腎静脈内血栓の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.