Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

一般ポスター 腎泌尿器
腎泌尿器

(S685)

排尿管理の治療方針決定に超音波検査が有用であった二分脊椎の一例

Usefulness of ultrasonography to determine a treatment of voiding dysfunction on a case of spina bifida

小川 典之, 皆川 倫範, 大門 裕典, 齊藤 徹一, 鈴木 都史郎, 道面 尚久, 永井 崇, 小川 輝之, 石塚 修

Noriyuki OGAWA, Tomonori MINAGAWA, Hironori DAIMON, Tetsuiti SAITOU, Toshirou SUZUKI, Takahisa DOUMEN, Takashi NAGAI, Teruyuki OGAWA, Osamu ISHIZUKA

信州大学医学部泌尿器科学教室

Department of urology, Shinshu University School of Medicine

キーワード :

【症例】
17歳男性.二分脊椎による神経因性膀胱のため,生後6ヵ月より間欠的自己導尿(Clean intermittent catheterization:CIC)が開始された.12歳時に有熱性尿路感染症を繰り返したため,尿流動態検査(Urodynamic study:UDS)を施行した.両側の膀胱尿管逆流(Vesicoureteral reflux: VUR)gradeⅡを認めたため,13歳時にデフラックス注入療法を施行した.以降熱発の頻度は減少したが膀胱炎を繰り返した.16歳時に施行したUDSでは,VURは認めず,膀胱のコンプライアンスは良好であった.しかし,17歳時に再度熱発し腎盂腎炎にて緊急入院となった.その際に腹部超音波検査で両側水腎症と著明なびまん性膀胱壁肥厚を認めていた.神経因性膀胱の悪化を背景とした膀胱コンプライアンスの低下と,両側のVURに伴った尿路感染症と考え,尿道カテーテルを留置した.その後施行したUDSでは,膀胱内に300ml注入時点より左VURを認め,400ml注入時点で左VUR gradeⅡを認めた.また膀胱のコンプライアンスの低下を認め,膀胱拡大術の検討が必要な状態であった.抗生剤治療を十分に行った後,外来の定期検査で施行した腹部超音波検査で,膀胱壁肥厚の改善を認め,水腎症も消失していた.排尿管理を改めて下部尿路の感染を抑制するため,1回導尿量を200ml前後となるよう再指導し,以前と同様に外来で経過観察を行っている.
【考察】
本症例は,二分脊椎に起因した神経因性膀胱の一例で,幼少時からCICを行っていた.経過中,膀胱炎を繰り返していた時点では膀胱壁肥厚を認めていなかったが,今回の発熱時には,著明なびまん性膀胱壁肥厚と両側のVUR,水腎症を認めた.膀胱壁肥厚は,膀胱炎や膀胱機能低下を示唆する重要な所見である.通常の膀胱炎であればVURを起こすことはないため,膀胱壁肥厚は神経因性膀胱の悪化に伴う膀胱機能低下の所見であると考えた.そのような場合,CICの継続は不可能なので,尿道カテーテルを留置するか,QOLを考慮し,消化管を用いた膀胱拡大術による膀胱容量拡大とCICを組み合わせるのが治療オプションとなる.本症例では,その後十分な抗生剤治療の後に,膀胱壁肥厚は軽快し,水腎症は消失した.そのため膀胱壁肥厚は膀胱炎に伴う一時的な浮腫による所見であり,それに伴い膀胱のコンプライアンスが低下し,VURを起こしていたと考えられた.膀胱壁肥厚の改善に伴い膀胱機能も改善し,CICの再開が可能であった.本症例のように,膀胱炎に伴う膀胱壁肥厚・コンプライアンスの低下から,一時的に両側水腎症を起こす可能性があることは,二分脊椎患者の排尿管理においては留意するべき点である.また,一度尿道カテーテルを留置してしまうと,膀胱機能の評価が困難である.超音波検査を頻回に行い,膀胱壁肥厚の背景が感染であるか膀胱機能低下であるかの鑑別を行う必要がある.鑑別を行うにあたり短期的なフォローが必要となるが,被爆の問題のあるCT検査や,検査に手間がかかり施行できる医療機関が限られるMRI検査は不向きである.そのような点で,本症例において,簡便で非侵襲的な超音波検査を用いることは有益であった.
【結語】
神経因性膀胱患者の排尿管理において,超音波検査で膀胱壁の観察を頻回に行うことにより,膀胱の炎症と機能障害を鑑別することが可能である.超音波検査を適切に用いれば,過剰な検査や治療を回避できる可能性がある.