Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

一般ポスター 産婦人科
胎盤・臍帯・母体卵巣

(S679)

妊娠中に急速に増大した両側黄体卵巣嚢胞合併妊婦の1例

A case of corpus luteum cyst rapidly increased during pregnancy

仲尾 岳大, 東 裕福, 中山 琢生, 千島 史尚, 川名 敬

Takehiro NAKAO, Hiromitsu AZUMA, Takuo NAKAYAMA, Fumihisa CHISHIMA, Kei KAWANA

日本大学医学部産婦人科

Department of Obstetrics and Gynecology, Nihon University School of Medicine

キーワード :

【緒言】
卵巣腫瘍合併妊娠における卵巣腫瘍の外科的切除は,妊娠黄体嚢胞が退縮する妊娠16週まで待機することが望ましい.卵巣腫瘍合併妊娠における悪性腫瘍の頻度は2~5%である.そのため,卵巣腫瘍の診断には,妊娠中の超音波診断を中心とする画像による評価と適当な時期の外科的切除による確定診断が重要である.今回,我々は妊娠中に急速に増大し悪性卵巣腫瘍との鑑別を要した両側黄体化卵巣嚢胞合併妊娠の1例を経験したので報告する.
【症例】
28歳2経妊0経産.自然妊娠し妊娠6週に近医を受診時には卵巣腫瘍は指摘されなかった.妊娠9週の経腟超音波検査にて約6cmの両側多房性卵巣嚢腫を認めた.妊娠11週に両側とも約10cm大へ増大したため卵巣腫瘍合併妊娠の診断で当院を紹介された.妊娠16週には骨盤内に17cmの多房性嚢胞性病変(左右は不明)となり,妊娠末期には20cm大へ増大した.経腹超音波所見では,卵巣腫瘤は多房性で,一部隔壁の肥厚と壁在結節を伴っており境界悪性卵巣腫瘍以上も考慮された.MRIにおいても超音波と同様に多房性嚢胞を認めたが,明らかな腹水貯留やリンパ節腫大の所見を認めなかった.腫瘍マーカーはCEA, CA19-9,CA125において有意な上昇を認めなかった.黄体嚢胞の時期に一致した増大を認め,明らかな悪性を示唆する所見を認めず,臨床症状が無く,本人も手術に消極的であったことから厳重経過観察とした.卵巣腫瘤の大きさから腹圧による分娩時破裂を回避するために妊娠38週選択的複式帝王切開分娩とした.帝王切開の開腹時に黄色透明な内容液を含む多房性嚢胞を両側に認めた.肉眼的には悪性腫瘍を疑う所見ではなかったことから両側卵巣嚢腫を生検とした.最終病理組織診断は黄体嚢胞であった.分娩後4か月で両側卵巣嚢胞は自然消失した.
【考察】
本症例は自然妊娠であったにも関わらず,その卵巣腫瘤が卵巣過剰刺激症候群(OHSS)の卵巣腫大と酷似した所見であった.また妊娠黄体嚢胞は妊娠16週以降縮小することが一般的であり,医原性の素因がなく妊娠黄体嚢胞が増大し続けることは稀である.本症例では,20cm超への持続的な増大傾向,隔壁形成,壁在結節を認めたことから悪性卵巣腫瘍も考慮すべき超音波所見であったが,黄体嚢胞との診断で経過観察としたことから不必要な妊娠中の手術を回避できた.増大し続ける妊娠黄体嚢胞と悪性腫瘍を鑑別することは周産期管理においてピットフォールとなりうるが,その鑑別に超音波検査は有用であると考えられた.