Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

一般ポスター 産婦人科
胎児異常

(S676)

胎児期超音波検査で胎便性腹膜炎・陰嚢炎と診断された1例

A case of meconium peritonitis with scrotitis diagnosed by fetal echosonography

上山 怜, 中田 雅彦, 鷹野 真由実, 梅村 なほみ, 長崎 澄人, 大路 斐子, 前村 俊満, 森田 峰人, 与田 仁志

Ray UEYAMA, Masahiko NAKATA, Mayumi TAKANO, Nahomi UMEMURA, Sumito NAGASAKI, Ayako OJI, Toshimitsu MAEMURA, Mineto MORITA, Hitoshi YODA

1東邦大学医学部産科婦人科学講座, 2東邦大学医学部新生児学講座

1Department of Obstetrics and Gynecology, faculty of medicine, Toho University, 2Department of Neonatology, faculty of medicine, Toho University

キーワード :

胎便性腹膜炎とは,胎児の閉塞性病変や奇形などが原因で主に小腸の穿孔が発生し,腹腔内に漏出した胎便による無菌性の化学性腹膜炎である.胎児期の所見としては,嚢胞形成や石灰化などが挙げられるが必ずしも典型的な所見とならない場合もある.今回我々は,胎児腹水と陰嚢水腫の所見の覚知から精査に至り胎便性腹膜炎と診断され,出生後新生児への有効な外科的治療が円滑に行われた1例を経験したので報告する.
症例は,33歳女性,経妊2回経産2回,既往症なし.前回までの妊娠分娩経過で特記すべき異常なし.今回妊娠初期より他院で管理され妊娠27週までの妊婦健康診査で特に異常を指摘されず,妊娠29週の同健診は助産師外来で問診および身体診察のみ実施された.妊娠30週頃より主に夜間の腹緊を自覚していた.妊娠31週6日の腹部超音波検査で胎児腹水と陰嚢水腫を認めたため,同日,精査およびその後の妊娠分娩管理依頼目的で当院に紹介された.当科初診時の所見は,胎児推定体重1977g(+0.91 SD),AFI= 15.1cmで,BPD +1.20 SD,AC +1.79 SD,FL -1.05SDと,腹水貯留による腹囲の増大が認められたが明らかな腸管浮腫や拡張は認めなかった.その他,皮下浮腫や,心臓および大血管などの臓器に明らかな構造や機能の異常を認めなかった.症状,身体診察およびその他の理学的所見により切迫早産と診断し,子宮収縮抑制および胎児の経過観察を目的として入院管理を開始した.入院後,安静および薬剤投与により切迫早産は速やかに軽快傾向を見せた.妊娠32週4日,胎児水腫の原因として染色体異常を鑑別する目的でインフォームド・コンセントを得た上で羊水染色体検査を実施したところ46XY正常核型であった.妊娠33週3日の超音波検査では,腸管に嚢胞性病変などの構造異常を認めなかったものの,腹腔内にdebris様のエコーを認め,腸管内容物が全体として少なく腸管蠕動運動も乏しく,また陰嚢内にも同様にdebrisを伴う腹水の還流を認めたため胎便性腹膜炎を疑った.妊娠34週3日の同検査でも同様の所見を認め,出生後の外科処置を考慮し妊娠37週0日以降での計画分娩を実施することとした.その後も腹囲の増大は継続した.妊娠37週2日に陣痛誘発分娩の目的で入院となり,子宮頸管拡張およびオキシトシン投与が開始され,37週4日に頭位経腟分娩に至った.児は男児で,出生時体重は3393g,Apgar scoreは1分値6点5分値8点,臍帯動脈血pH7.363だった.出生後の所見では,腹部および陰嚢が外見上著明に膨満していた.胎盤および臍帯に特記すべき所見は認めなかった.生直後より全身性チアノーゼを認めたため新生児集中治療室で気管挿管が実施され,速やかな酸素化が図られた.腸管穿孔の存在を想定し,抗生剤は第2世代セフェム他2剤が投与された.生後1日の腹部単純レントゲン写真でfree airを認め,穿刺腹水は血性であった.腹水排液により腹満が改善し呼吸循環動態が安定したのち,同日に開腹手術が実施された.腸管は全体が癒着し腹腔内に胎便を認めた.胃壁の破裂および終末回腸の穿孔が目視確認され,同部位の縫合修復がなされた.術後は腸管運動の回復と共に経腸栄養へと移行して管理を継続中であるが,特記すべき合併症もなく経過している.尚,腹水の消失と共に陰嚢水腫は軽快した.
今回,胎児腹水および陰嚢水腫の所見から診断に至った胎便性腹膜炎の一例を経験した.嚢胞形成や石灰化を伴わない胎便性腹膜炎の場合,腹水の性状や腸管運動の観察が診断に有用と思われた.