吉田 千穂子, 柴田 聡子, 武田 郁夫, 高橋 さつき, 石田 秀明, 長沼 裕子

Chioko YOSHIDA, Satoko SHIBATA, Ikuo TAKEDA, Satsuki TAKAHASHI, Hideaki ISHIDA, Hiroko NAGANUMA

¹平鹿総合病院臨床検査科, ²平鹿総合病院外科, ³平鹿総合病院病理診断科, ⁴秋田赤十字病院超音波センター, ⁵市立横手病院消化器科

¹Medical Laboratory, Hiraka General Hospital, ²Surgery, Hiraka General Hospital, ³Pathology, Hiraka General Hospital, ⁴Center of Diagnostic Ultrasound, Akita Red Cross Hospital, ⁵Gastroenterology, Yokote Municipal Hospital

キーワード :

【はじめに】
最近，a）背景肝に線維化が極めて軽微で，b）肝炎ウイルス感染やアルコール多飲など，原因を欠く，原発性肝細胞癌（HCC）例の報告が増加している．そのような場合，造影超音波所見からHCCを疑う事が十分可能な事が多い．しかし，まれに造影超音波所見が他の腫瘍の典型的な所見に類似している場合がある．我々は，そのような一例を造影超音波所見を中心に報告する．
使用診断装置:GE社：LogiqE9．超音波造影剤はソナゾイド（第一三共社）を用い，造影方法は通常の肝腫瘍の観察方法に準じた．
【症例】
10年来の糖尿病のため近医で加療中の60歳代男性．最近全身倦怠感出現し，当院受診．（GOT：48IU/L，GPT：41IU/L，γ-GTP：620IU/L，AFP:16ng/mL，PIVKA:185mAU/mL，チミジンキナーゼ活性：16.1U/L，可溶性IL-2レセプター：649U/mL）超音波（US）所見は，Bモード上，A）肝縁は整，胆管拡張なし．肝実質はBモード上正常肝と判断した．B）肝右葉内に（8mm～8cm）大の低エコー腫瘍が多発していた．腫瘍は，どれも均一な内部構造を示し，その中で，最大径の肝門部の8×8 cm大のものも内部構造は均一低エコーで，増強した後方エコーと外側音響陰影があり，この時点では，ほぼ全ての肝腫瘍の可能性を考慮した．しかし，C）（カラードプラ）肝内脈管内に腫瘍栓や血栓といった変化はなく，脈管の偏移もみられなかった．特に特徴的なのは，肝門部の大きな病変で，その腫瘍内を門脈と肝動脈が偏移無く走行し血流パターンに乱流などの異常もみられなかった．ちなみに，腫瘍はエラストグラフィーで周囲肝より均一に硬く，さらに，D）（造影超音波）腫瘍は造影早期から均一に濃染した，そのパターンは微細な血管が均等に分布しているもので，門脈相以降はほぼ均一に低染域となりその状態が持続した．腫瘍は多発であるが肝右葉に限局していること，背景肝はほぼ正常と考えられることから肝右葉切除術施行．組織所見は，腫瘍は中分化中心のHCCのみで皮膜や変性を伴っていなかった．周囲肝はA0F1と軽微の繊維化がみられる程度であった．
【考察】
近年，正常肝から発生したHCCの報告例が増加しつつある．その特徴として，a）自覚症状に乏しいこと，b）肝炎ウイルス陰性例が多いこと，c）生化学データの異常が軽微であること，等が挙げられ，そのため，d）診断に苦慮することも挙げられている．一方，肝悪性リンパ腫は，1）Bモード上，内部構造が均一低エコーで，2）カラードプラ上，脈管がその中を偏移無く走行し血流パターンに乱流などの異常もみられない，といったmass effectが軽微であること，3）造影超音波上，病変部が均一に濃染し，そのパターンは微細な血管が均等に分布しているものであることが多く，これらの特徴的所見から，本例においても当初悪性リンパ腫を強く疑った．しかし，正常肝から発生したHCC例では腫瘍の立ち振る舞いが進行した慢性肝疾患を基盤にした場合とは異なることは十分考えられる事も合わせ，今回のようにほぼ正常肝に近い状態に関しては，その超音波所見の見え方も通常のHCCとは異なることも想定してかからなくてはならない，と思われた1例であった．