Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

一般ポスター 消化器
消化管

(S657)

虫垂粘液嚢胞腺腫の1例

A Case of Mucinous Cystadenoma of the Appendix

池田 由利子, 大久佐 紀子, 杉本 京美, 鈴木 将慶, 小野寺 真一, 宮地 和人, 原澤 寛

Yuriko IKEDA, Noriko OKUSA, Kyoumi SUGIMOTO, Masayoshi SUZUKI, Shinnichi ONODERA, Kazuhito MIYACHI, Hiroshi HARASAWA

1獨協医科大学日光医療センター臨床検査部, 2獨協医科大学日光医療センター病理部, 3獨協医科大学日光医療センター外科, 4獨協医科大学日光医療センター呼吸器内科

1Clinical Laboratory Department, Dokkyo Medical University Nikko Medical Center, 2Pathology Department, Dokkyo Medical University Nikko Medical Center, 3Department of Surgery, Dokkyo Medical University Nikko Medical Center, 4Department of Respiratory Medicine, Dokkyo Medical University Nikko Medical Center

キーワード :

【はじめに】
虫垂粘液嚢胞腺腫は比較的まれな疾患であり,破裂により腹膜偽粘液種を来す可能性がある.しかし特徴的な所見に乏しく術前診断は困難とされている.今回われわれは虫垂粘液嚢胞腺腫の1例を経験したので報告する.
【症例】
67歳,男性.アルコール多飲で幻覚を主訴に近医を受診.肝機能異常を認めたためCTを施行し,盲腸腫瘍が疑われ当院紹介となった.
【既往歴】
特記所見なし.嗜好;焼酎を1日2合.入院時検査成績;AST 140 IU/l/37,ALT 122 IU/l/37,GGT 281 IU/l/37,CHE 183 IU/l/37,TG 158 mg/dl,CRP 0.02 mg/dl,AFP 11.38 ng/ml,CEA 3.22 ng/ml,CA19-9 12.03 U/ml,WBC 3.59 109/l,RBC 4.32 1012/l,Hb 14.9 g/dl,Plt 117 109/l.腹部超音波検査で上行結腸の下方に腫瘤像を認め,壁の肥厚と壁の層構造の乱れを認めた.内腔の拡張が著明で粘液などの貯留が考えられた.周囲に液体貯留や脂肪織の肥厚は認めなかった.腹部CT検査で回盲部に30×50mmの嚢状病変を認めた.内部の吸収値は23HU前後で増強効果は無く,粘液~ゼリー状の可能性が考えられた.大腸内視鏡検査で盲腸粘膜下腫瘍様病変または虫垂粘液嚢胞腺癌等の虫垂根部の病変が疑われた.PET検査で異常集積を認めなかった.虫垂粘液嚢胞腺腫が疑われ手術を勧めるも同意せず.5か月後のCT検査で38×64mmと腫瘍の増大傾向を認めたため手術となった.病理診断は粘液嚢腫(粘液嚢胞腺腫)であった.
【考察】
虫垂粘液嚢腫の発生頻度は本邦において,虫垂手術症例の0.08~4.1%と言われている.特異的な症状はなく,右下腹部の腫瘤触知・背部痛・便通異常など,無症状は20~30%でみられる.虫垂粘液嚢腫における超音波所見の文献を検索したところ,低エコーの嚢胞性腫瘤という記載が多数であった.今回の症例は超音波検査で,虫垂根部に境界明瞭な腫瘤像を認めた.壁の層構造があり消化管由来の病変であることが確認できた.腫瘍径は30×51mmで壁厚は14mmであった.内腔の拡張と壁の限局性肥厚を認め,内腔に粘液の貯留が疑われた.壁内には微細な血流シグナルを認めた.嚢胞壁の不整や内腔の乳頭状腫瘤は悪性を示唆する所見との報告があるが,壁は平滑で乳頭状の腫瘤は認められず,CEAも基準範囲内であることから,悪性の可能性は低いと思われた.CT検査では嚢胞壁に石灰化を伴うことが多いとされ,当症例のCT検査でも肥厚した壁内に石灰化を認めた.超音波検査では壁内に点状や線状の高エコー像が認められた.虫垂粘液腫は炎症,屈曲,捻転,回盲部腫瘤などにより虫垂根部が無菌的に閉塞し,内腔粘膜から粘液が持続的に産生されることにより生じる.病理組織学的に過形成,粘液嚢胞腺腫,粘液嚢胞腺癌に分類される.虫垂粘液嚢胞腺腫の5年生存率は91~100%と非常に良好であるが,破裂や粘液の漏出により腹膜偽粘液腫を発症した場合の5年生存率は53~75%,10年生存率は10~32%と報告されている.術後10カ月経過したが,再発・転移所見は認めていない.今後も定期的な経過観察を行う予定である.
【結語】
虫垂嚢胞粘液腺腫の1例を経験した.腫瘍の形態や腫瘍内腔の観察に超音波検査は有用であった.