Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

一般ポスター 消化器
消化管

(S654)

肥厚性幽門狭窄症自然軽快例の経時的超音波検査所見

Sequential ultrasonographic findings of hypertrophic pyloric stenosis with spontaneous remission

野中 航仁, 市橋 光

Kazuhito NONAKA, Ko ICHIHASHI

自治医科大学附属さいたま医療センター小児科

Pediatrics, Saitama Medical Center Jichi Medical University

キーワード :

【はじめに】
乳児肥厚性幽門狭窄症は,原因不明の幽門筋肥厚によりミルクの通過障害を呈する疾患である.生後3~5週の乳児に好発し,典型例では無胆汁性の噴水様嘔吐を主訴として医療機関を受診する.肥厚した幽門部を“オリーブ”として右上腹部に触知すれば診断できるが,診断確定のためには超音波検査が第一選択であり,感度・特異度ともに優れている.
今回,我々は超音波検査で肥厚性幽門狭窄症と診断し,その後の超音波検査での慎重な経過観察により自然軽快を確認した症例を経験したので報告する.
【症例】
特に既往のない生後1か月の女児.受診3日前より嘔吐が出現し,頻度と量が増加傾向となったため,市内の小児科医院より精査目的に当院へ紹介された.超音波検査で幽門筋の肥厚(4 mm)および幽門管の延長(20 mm)を認め,胃は過蠕動で幽門部でのミルクの通過障害を呈していたため肥厚性幽門狭窄症と診断した.また来院時に発熱に気づかれ,周囲流行より施行したインフルエンザ迅速抗原検査でB型陽性と判明した.インフルエンザ軽快後に治療開始の方針とし,入院して輸液療法を開始した.解熱するまでに普段の半量程度を上限として哺乳を試みたところ病的嘔吐なく哺乳できた.経過中の超音波検査では幽門筋厚は4~5mmと著変なく,幽門管の形態を呈して胃の蠕動に伴う変化は認めなかったが,少量のミルクは幽門部を通過する様子が観察された.このため,無治療で経過観察する方針とし,入院4日目に解熱してから哺乳量を漸増していった.入院7日目より自律哺乳とし,病的嘔吐なく1日8回の哺乳ができることを確認して退院した.退院後の外来でも超音波検査での慎重な経過観察を行った.退院して約2か月後(生後3か月時)の検査でも幽門筋肥厚および幽門管延長は残存しており,幽門の形態変化は乏しかったが,ミルクの通過は確認できた.退院後5か月(生後6か月)時の超音波検査では幽門筋肥厚は軽快し,胃の蠕動に伴い幽門が開いてミルクが通過することを確認できた.離乳食の摂取も問題ないため,経過観察は終了した.
【考察】
乳児肥厚性幽門狭窄症の超音波検査では,幽門筋厚が全周性に3~4mm以上に肥厚,幽門管長が14~16mm以上に延長しているものを陽性と判断し,さらに胃の蠕動波が伝わらない(形態が変化しない)ことをもって確定診断している.肥厚性幽門狭窄症と診断したら,通常は外科治療(粘膜外幽門筋切開術)もしくは硫酸アトロピンによる内科的治療が施設によって選択されている.本症例ではインフルエンザに罹患していたため待機的に治療を行う方針としていたが,無治療期間中に哺乳が可能となった.この際,超音波検査で幽門部の形態評価を行うとともにミルクの通過を観察しながら慎重にミルクを漸増することで,合併症なく軽快退院できた.幽門筋肥厚および幽門管延長が肥厚性幽門狭窄症の診断基準を満たしていても自然軽快する例が存在するため,早期の外科治療を第一選択とするよりも,無治療もしくは硫酸アトロピンによる内科的治療を先行し,超音波検査による慎重な経過観察を行う選択もあり得ると考えられた.
【結論】
超音波検査は侵襲がないため繰り返し行うことができ,肥厚性幽門狭窄症の診断のみならず経過観察にも有用である.肥厚性幽門狭窄症の診断基準を満たしていても自然軽快する例が存在するため,超音波検査による慎重な経過観察が重要である.