Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

一般ポスター 消化器
肝臓1

(S653)

肝静脈波形及び肝硬度測定はBudd-Chiari症候群の適切な治療時期決定に有用である

Utility of hepatic vein waveform pattern and liver stiffness measurement in determining appropriate treatment timing of Budd-Chiari syndrome

中塚 拓馬, 揃田 陽子, 奥新 和也, 中川 勇人, 大倉 直樹, 佐藤 次郎, 赤羽 正章, 建石 良介, 池田 均, 小池 和彦

Takuma NAKATSUKA, Yoko SOROIDA, Kazuya OKUSHIN, Hayato NAKAGAWA, Naoki OHKURA, Jiro SATO, Masaaki AKAHANE, Ryosuke TATEISHI, Hitoshi IKEDA, Kazuhiko KOIKE

1東京大学医学部附属病院消化器内科, 2東京大学医学部附属病院検査部, 3東京大学医学部附属病院放射線科, 4NTT東日本関東病院放射線部

1Gastroenterology, The University of Tokyo, 2Clinical Laboratory, The University of Tokyo, 3Radiology, The University of Tokyo, 4Radiology, NTT Medical Center Tokyo

キーワード :

【はじめに】
Budd-Chiari症候群は肝部下大静脈や肝静脈三主幹の閉塞ないし狭窄により門脈圧亢進症を呈する疾患群であり,しばしば経皮的バルーン血管形成術(PTA)による狭窄解除術が施行される.下大静脈狭窄の評価には血管造影が必須であるが,侵襲性があり患者負担が大きい.今回我々は,腹部超音波ドプラ法で検出した肝静脈血流シグナルのFFT解析により得られる波形パターン(肝静脈波形)及びFibroScanによる肝硬度測定(LSM)でPTAの治療効果を判定し,さらに術後の下大静脈再狭窄の予測も可能であった症例を経験したので,ここに報告する.
【症例報告】
19歳男性.11歳時,肝機能障害を契機に1a型Budd-Chiari症候群と診断された.13歳時,両下腿浮腫,眼瞼浮腫が増悪し当院小児科受診.肝部下大静脈の膜様閉塞部に対しPTAを施行し,症状は改善した.しかしその後,脾腫・血小板減少・両下腿浮腫が出現し,MRIで肝部下大静脈閉塞が疑われたため当科入院となった.治療前の肝静脈波形は単相波,LSM値は35.3kPaであった.血管造影検査で肝部下大静脈の完全閉塞が判明し,膜様閉塞部を穿刺突破したのち狭窄部に対しバルーン拡張術を施行した.術翌日,肝部下大静脈は2mm程度の開存が見られ,肝静脈波形は単相波であったがLSM値は21.3kPaと低下した.術後20日目,肝部下大静脈は10mm程度の開存が見られ,肝静脈波形は2相波に変化,LSM値は14.3kPaに低下した.その後定期的に肝静脈波形及び肝硬度測定を継続したところ,波形は徐々に平坦化し,LSM値も術後10か月目には20.5kPaまで増加した.この時点で血管造影を施行したところ,やはり下大静脈狭小化が見られたため,PTAを再度行った.
【考察】
肝静脈波形は心拍動の影響で健常者では3相波となるが,本症例のように下大静脈が閉塞すると心拍動が肝静脈に伝わらず平坦化する.またLSMは肝うっ血の影響を受けて高値となることが知られている.本症例における肝静脈波形の変化は下大静脈狭窄の程度を反映し,LSM値の変化は肝うっ血の程度を反映していると考えられる.Budd-Chiari症候群に対するPTA術後はしばしば再狭窄・再閉塞が問題となるが,完全閉塞に対する穿刺はリスクの高い処置となるため治療のタイミングを逸しないことが肝要である.肝静脈波形及びLSMにより,Budd-Chiari症候群に対するPTAの治療効果判定および下大静脈再狭窄の予測が可能であり,こうしたリスクを回避しうると考えられた.