武田 武文, 石橋 啓如, 野原 めぐみ, 豊水 道史, 浅木 努史, 安田 伊久磨, 吹田 洋將

Takefumi TAKEDA, Hiroyuki ISHIBASHI, Megumi NOHARA, Michifumi TOYOMIZU, Tsutoshi ASAKI, Ikuma YASUDA, Yosho FUKITA

聖隷横浜病院消化器内科

Department of Gastroenterology, Seirei Yokohama General Hospital

キーワード :

【目的】
孤立性肝結核腫は結核菌が肝腫瘤内に限局しているために，全身性の臨床症状に乏しく，また，画像診断での他の肝占拠性病変との鑑別が困難なことから，しばしば診断に難渋する．生検により確定診断が得られれば抗結核薬内服により根治が期待されるが，診断がつかずに手術に至る症例は未だに多い．今回我々は，原因不明の肝腫瘤に対してソナゾイド造影超音波検査（造影US）を施行し，肝組織検査にて肝結核腫と診断出来た2症例を経験した．肝結核腫の造影US所見に関する報告は少なく，報告する．
【症例1】
69歳男性．膵頭十二指腸切除術後，肝内結石症とインスリン依存性糖尿病にて通院中，定期施行のMRCP検査にて肝内多発高信号域を認めた．CRPの軽度上昇（0.7mg/dL）を認めたが，無症候であった．胸腹部造影CT検査では肝内に多発するリング様濃染を伴う低吸収域（5-40mm）と肝内結石，胆道気腫，主膵管拡張が指摘されたが，胸部及び上下部消化管に異常はなかった．B-mode観察では低エコー結節が複数個描出されたが，胆道気腫の存在により良好な描出が阻害された．肝S3肝表24mm大の低エコー腫瘤は造影US早期血管相では周囲肝と同等に造影され，2分後以降では明瞭な造影欠損域として観察された．後期相での全肝スクリーニングにより，超音波穿刺が可能な肝S8に20mm大の明瞭な造影欠損域を認めたが，同部位はモニター画像では境界不明瞭な淡い低エコー域として観察され，造影剤再注入では早期血管相で周囲肝よりやや弱い造影効果を認めた．肝S8病変に対して造影US下穿刺を施行し，1度目の検査では肉芽腫性病変を認め，2度目の検査で乾酪性壊死を伴う類上皮細胞肉芽腫，ラングハンス型巨細胞，Ziehl-Neelsen染色で抗酸菌染色陽性桿菌が確認され，肝結核腫と診断された．追加測定されたIFN-γは陽性であった．
【症例2】
75歳男性．透析導入目的で入院した慢性腎臓病患者．入院時に38.1度台の不明熱を認め，CRPの高値（8.2mg/dl）を認めた．胸腹部単純CT検査では左側胸水及び腹水貯留を認め，造影CT検査にて肝S5に径20mmの低吸収域が指摘された．上下部消化管には異常を認めなかった．肺結核の既往があり，IFN-γは陽性であった．B-mode観察では肝S5に淡い低エコー腫瘤（径20mm）が観察された．造影US早期相では内部に弱い造影効果，1分後以降では明瞭な造影欠損域として観察された．腹腔内にドレナージチューブ（8Fr）を留置し，腹水排液の上で，造影USガイド下生検を施行し，類上皮細胞肉芽腫，Ziehl-Neelsen染色で抗酸菌染色陽性桿菌が確認され，肝結核腫と診断された．
【結果】
2症例共に抗結核薬が投与され，治療反応は良好であった．肝結核腫は造影US早期相では周囲肝と同等からやや弱い造影効果を認め，2～3分後以降の比較的早期に明瞭な造影欠損域として観察された．後期相での造影USガイド下穿刺では，比較的小病変であっても良好な描出下での穿刺が可能であった．
【考察】
肝結核腫はB-mode観察で低エコー域として観察されることが多いが，不明瞭な病変も多く，造影US検査は肝結核腫の存在診断と超音波ガイド下穿刺に有用と考えられた．早期相の所見については他の占拠性病変を確実に否定し得るものではないが，同様の造影US所見を認めた場合はIFN-γを測定し，超音波ガイド下腫瘤生検を考慮すべきと考えられた．
【結語】
孤立性肝結核腫の造影US所見について報告した．画像所見のみでの確定診断は困難であるものの，造影超音波所見は肝結核腫診断の一助になると考えられた．