Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

一般ポスター 循環器
症例2

(S647)

経皮的冠動脈形成術後に合併した左房解離の一例

Left Atrial Dissection after percutaneous coronary intervension

浅川 雅子, 大竹 睦美, 菅原 佑, 鷲谷 宗秋, 池崎 真弥, 山下 皓正, 村岡 洋典, 川上 拓也, 碓井 伸一

Masako ASAKAWA, Mutsumi OHTAKE, You SUGAWARA, Muneaki WASHIYA, Maya IKESAKI, Terumasa YAMASHITA, Hironori MURAOKA, Takuya KAWAKAMI, Shin-Ichi USUI

1JR東京総合病院循環器内科, 2JR東京総合病院臨床検査科

1Department of Cardiology, JR Tokyo General Hospital, 2Clinical Laboratory, JR Tokyo General Hospital

キーワード :

【症例】
60歳台男性 
【既往歴】
糖尿病,高血圧
【家族歴】
特記すべきことなし
【現病歴と経過】
労作時胸痛の精査目的に当科受診し,CAGにて#3完全閉塞,#7 99%狭窄を認め,#3に対する経皮的冠動脈形成術(PCI)施行.回旋枝の心房枝から#4AV末梢側副路からの逆行性アプローチにより#3のPCIを試みたが,側副路の選択的造影にて造影剤の血管外漏出を認めたため,マイクロカテーテルによる止血を試み,最終造影では造影剤漏出を認めずに,手技を終了した.術当日夜間にも胸痛が持続したが心電図変化はなく,ステント留置による伸展痛と判断した.翌日心エコー実施したところ,左房後壁に60x40mmの等輝度腫瘤を認め,左房解離による左房筋層内血腫と診断した.血行動態は安定していたため,PCI治療後に必要な抗血小板薬は継続とし,頻回に心エコーで変化を経過観察した.血腫は拡大せず,第10日内部エコーがやや低くなってきた.その後,隔壁を伴う低輝度腫瘤となり,若干の縮小を認めた.経過中には発作性心房細動を合併し,また第27病日2:1心房粗動発作による動悸を訴え,心電図でV5,6陰性T出現と高感度トロポニンI 16000pg/mlと上昇し,残存狭窄部の#7急性心筋梗塞と診断し,第28病日緊急PCIとなり,PCI中ヘパリン11000Uを使用せざるを得なかった.PCI終了時にプロタミンにてリバースした.血腫は心エコーでちょうど縮小し始めた時期であったが,幸いこのPCI後の左房壁内血腫の拡大は認めなかった.その後血腫は,周囲が高輝度となり,内部エコーは低輝度のまま徐々に縮小し,最終的に約半年後には心エコーで描出されなくなった.急性心筋梗塞および左房壁内血腫は外来治療可能と判断し,第43病日退院となった.発作性心房細動は薬物療法によりコントロール可能で,経口抗凝固療法は併用していない.
【考察】
左房解離,あるいは左房壁内血腫は心臓手術の稀な合併症で,僧帽弁手術後に多いがその頻度は明らかでなく,自然解離例のほか,心カテーテルの合併症としても報告がある.左房解離の治療は75%が手術,25%は保存的治療により血腫吸収を認めたという報告がある.当院では,現在までに本例含め,2例のPCI後左房解離合併の経験があり,いずれも心エコーで経過観察しながら,保存的治療にて治療できた.ステント留置術後には抗血小板薬内服が必須である一方,出血性合併症が発生した場合の抗血小板薬継続は意見の分かれるところである.さらに心房細動合併例では抗凝固療法の要否判断も必要となる.これらの治療に際しては,心エコーによる経過観察が治療方針決定のうえで重要かつ有用であった.
【まとめ】
保存的治療に成功した左房解離による左房壁内血腫の経過を心エコーにて観察しえた症例を経験し,貴重な症例として報告する.