Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

一般ポスター 循環器
症例2

(S645)

非穿通性胸部外傷による遅発性心タンポナーデの一例

A case of delayed cardiac tamponade due to non-penetrating chest trauma

谷川 智彦, 繼 敏光, 影山 智己, 柴田 勝, 森谷 和徳, 三田村 秀雄

Tomohiko TANIGAWA, Toshimitsu TSUGU, Toshimi KAGEYAMA, Masaru SHIBATA, Kazunori MORITANI, Hideo MITAMURA

1国家公務員共済組合連合会立川病院, 2国家公務員共済組合連合会立川病院循環器内科

1Federation of National Public Service Personnel Mutual Aid Associations TACHIKAWA HOSPITAL, 2Department of Cardiology, Federation of National Public Service Personnel Mutual Aid Associations TACHIKAWA HOSPITAL

キーワード :

【はじめに】
心タンポナーデの原因は,特発性,悪性腫瘍,感染症(細菌,ウイルス,結核,HIV),外傷性,解離性大動脈瘤,急性心筋梗塞後,医原性などがある.外傷性心タンポナーデは心タンポナーデの0.7%に発症する稀な疾患であり,遅発性の発症も報告されている.われわれは鈍的外傷受傷2か月後に心タンポナーデと診断した1例を経験した.
【症例報告】
症例は63歳男性.2ヶ月前に,郵便物配達中に階段2段分を踏み外し前胸部を強打した.前胸部痛は10日間遷延していたが,胸部症状は改善したため医療機関は受診しなかった.1ヶ月前に慢性膵炎に対して経過観察のため,他院でCTを施行した.少量の心嚢液貯留があったが,呼吸困難などの自覚症状がなかったため経過観察となった.2日前から呼吸困難を自覚したため近医を受診し,胸部X線で,心拡大(CTR 81%)を指摘されたため,当院を受診した.血行動態は保たれていたが,経胸壁心エコー図で多量の心嚢液貯留を認めた.心嚢ドレナージにより1000mLの暗赤色の滲出性心嚢液を排液した.細胞診でclass2,胸部CT,ガリウムスキャンで悪性腫瘍の存在は否定的であった.採血と胸部X線で細菌性,ウイルス性,膠原病,結核,尿毒症,甲状腺機能低下症は否定的であった.心電図は有意なST変化はなく,心筋梗塞や心筋梗塞後のDressler症候群はなかった.医原性や薬剤性も考え難く,造影CTで解離性大動脈瘤や肺塞栓症もなく,外傷性心タンポナーデと診断した.入院14日目の経胸壁心エコーで心嚢液の再貯留がないことを確認し,退院とした.
【考察】
外傷性心疾患は高い致死率であり,搬送中に死亡した症例の20%に心タンポナーデを認めている.生存したまま搬送される症例は10%未満であり,70%に心タンポナーデがあった.心タンポナーデを発症した患者は救命に成功した場合でも,遅発性心タンポナーデの発症の危険性が高く,注意が必要である.遅発性心タンポナーデは鈍的及び鋭的心外傷いずれにおいても発症することが知られている.
本疾患は,悪性腫瘍,膠原病,感染症,結核,薬剤性は否定的であり,Dressler症候群や医原性によるものも否定的であった.そのため,2か月前の胸部鈍的外傷による心タンポナーデと診断した.外傷性心タンポナーデの発症率は約0.7%と稀な疾患であるが,鈍的外傷および穿通的外傷のいずれにおいても遅発性の心タンポナーデは報告されている.受傷100日後に発症した報告もあり,心タンポナーデを診断する際には外傷性も鑑別とする必要であると考える.