Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

一般ポスター 循環器
症例1

(S644)

分子標的薬によってPHの改善を認めた門脈肺高血圧症が疑われる一例

A case of portopulmonary hypertension with improvement of pulmonary hypertension by molecular targeted drug

生駒 久美子, 田辺 康治, 山本 麻紀子, 井口 涼子, 高岡 咲子, 吉崎 智美, 松本 文美子, 宗政 充, 山地 博介

Kumiko IKOMA, Yasuharu TANABE, Makiko YAMAMOTO, Ryouko IGUCHI, Sakiko TAKAOKA, Tomomi YOSHIZAKI, Fumiko MATSUMOTO, Mitsuru MUNEMASA, Hirosuke YAMAJI

1岡山ハートクリニック検査部, 2国立病院機構岡山医療センター循環器内科, 3岡山ハートクリニック内科

1Department of Clinical Laboratory, Okayama Heart Clinic, 2Department of Cardiovascular Medicine, National Hospital Organization Okayama Medical Center, 3Department of Internal Medicine, Okayama Heart Clinic

キーワード :

【はじめに】
門脈肺高血圧症(Portopulmonary hypertension;以下PoPH)とは,門脈圧亢進を来した患者に合併する肺動脈性肺高血圧症(Pulmonary hypertension;以下PAH)である.PoPHの頻度は報告によって異なるが,門脈圧亢進症を来した患者の2~6%に合併するとされている.今回,PoPHが疑われ,分子標的薬によってPHが改善した一例を経験したので報告する.
【症例】
30歳代男性
【主訴】
動悸を伴う意識消失
【既往歴】
高校生の頃,何度か意識消失があるが詳細は不明
【現病歴】
動悸を自覚した翌日,息苦しさを感じた後,意識消失.また,一年半で体重が約20kg減少した.
【来院時現症】
SpO 2:98%(room air),心雑音(-),浮腫(-),varix(-)
【検査所見】
【心電図】
不完全右脚ブロック.
【心エコー図検査】
右房・右室拡大,左室の扁平化,軽度~中等度三尖弁逆流・推定収縮期肺動脈圧(sPAP)87mmHgを認めた.明らかな心内シャントは認めず.左心系の拡大なく,左室収縮能良好.PAHを疑い,専門的な治療が必要と判断され,他院紹介となった.紹介先の病院での血液検査ではWBC,CRP,肝胆道系酵素,アンモニア,BNPの上昇を認め,D-ダイマーは正常.造影CTでは,膵尾部に連続する腫瘤(約15×11cm),肝臓にも多発性腫瘤を認めた.また,脾腫や発達したシャント血管など,門脈圧亢進の所見を認め,PoPHによるものと考えられた.右心カテーテル検査でも平均肺動脈圧43mmHg,肺血管抵抗381dynes・sec・cm -5,平均肺動脈楔入圧9mmHgとPoPHの診断基準を満たしていた.病理組織診断にて,膵原発神経内分泌腫瘍と診断され,腫瘍に対し分子標的薬(エベロリムス)の投与を開始した.
【経過】
エベロリムス投与開始後約2か月で膵腫瘤は約11×9cmに縮小を認め,推定sPAPが65mmHgに改善した.血液検査でもBNPの改善を認めた.エベロリムス投与開始後約6か月で,推定sPAPはさらに56mmHgに改善した.現在引き続き経過観察中である.
【考察】
本症例は,PoPHが疑われる症例に対して分子標的薬が奏功した一例と考えられる.PoPHの鑑別診断としては,肺血栓塞栓症や先天性の短絡疾患等が考えられる.今回,心エコー図検査では,右心系の拡大や著名な収縮期肺動脈圧の上昇を認めたものの,心内シャントや右心内に塞栓源は認めず,McConnell徴候も認めなかったため,PAHが示唆された.CT等他のモダリティの検査より門脈圧亢進の所見が認められ,PoPHが疑われた.今回,分子標的薬が奏功し神経内分泌腫瘍が縮小したことで,シャント血管が減少し,PHの改善に繋がったと考えられた.これより,PoPHのような二次性のPHでは基礎疾患の治療を行うことでPHが改善することが示唆された.また,心エコー図検査にて非侵襲的にPH改善の様子を観察でき,経過観察において心エコー図検査が有用であると思われた.