Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

一般口演 血管
血管1

(S620)

人工関節置換術後の新規DVT発生例の術前ひらめ静脈径は仰臥位でも拡大しているか?

Is preoperative soleal vein dilated even in supine position in patients who developed deep vein thrombosis after major orthopedic surgery?

阿部 記代士, 湯田 聡, 安井 謙司, 柳原 希美, 河野 豊, 永原 大五, 寺本 篤史, 名越 聡, 髙橋 聡, 三浦 哲嗣

Kiyoshi ABE, Satoshi YUDA, Kenji YASUI, Nozomi YANAGIHARA, Yutaka KAWANO, Daigo NAGAHARA, Atsushi TERAMOTO, Satoshi NAGOYA, Satoshi TAKAHASHI, Tetsuji MIURA

1札幌医科大学附属病院検査部, 2手稲渓仁会病院循環器内科, 3札幌医科大学医学部感染制御・臨床検査医学講座, 4札幌医科大学医学部整形外科学講座, 5札幌医科大学医学部生体工学運動器治療開発講座, 6札幌医科大学医学部循環器・腎臓・代謝内分泌内科学講座

1Division of Laboratory Diagnosis, Sapporo Medical University Hospital, Sapporo, Japan, 2Department of Cardiology, Teine Keijinkai Hospital, 3Department of Infection Control and Clinical Laboratory Medicine, Sapporo Medical University School of Medicine, Sapporo, Japan, 4Department of Orthopedic Surgery, Sapporo Medical University School of Medicine, Sapporo, Japan, 5Department of Musculoskeletal Biomechanics and Surgical Development, Sapporo Medical University School of Medicine, Sapporo, Japan, 6Department of Cardiovascular, Renal and Metabolic Medicine, Sapporo Medical University School of Medicine, Sapporo, Japan

キーワード :

【背景】
人工関節置換術後に深部静脈血栓症(DVT)を新規に発症する因子として,術前のひらめ静脈(SV)の拡大を報告してきた.その測定方法はベッド上で座位となり,下腿を下垂させて肢位での評価である.DVTを発症する例では座位だけでなく,仰臥位でも術前のSVが拡大している可能性があるが,これまで検討はされていない.
【目的】
人工関節置換術後の新規DVT発症例において,術前のSVが仰臥位でも拡大しているか否かを検討すること.
【対象と方法】
2015年10月から2016年11月までの間に人工関節置換術を施行し,その前後で下肢静脈エコー検査を施行した81例(平均年齢67±12歳,人工股関節置換術(THA)61例,人工膝関節置換術(TKA)20例)を対象とした.術前(平均7日)と術後(平均9日)に,東芝社製Aplio500もしくはGE社製LOGIQ S8の8-10MHzの高周波リニア型プローブを使用して下肢静脈エコー検査を行い,DVTの有無,座位と仰臥位でのSV径を評価した.人工関節置換術の既往例,もしくは術前にDVTを認めた例は除外した.術前SVの測定は,ベッド横に両側の下腿を下垂させた座位の状態と,ベッド上に仰臥位の状態で,それぞれのSV最大短軸径を計測した.また,健常人10例(平均年齢50±5歳)を対照群として,同様の方法で座位と仰臥位でのSV最大短軸径を計測した.
【結果】
20例(25%)に新規DVTの発症を認めた(DVT群).DVT群(20例)は,非DVT群(61例)に比べ有意に高齢であった(72±11歳vs. 61±12歳,p<0.05).DVT群の座位SV径(8.7±2.3 mm)は,非DVT群(6.9±1.8 mm)および対照群(6.4±1.3 mm)に比べ,有意(p<0.05)に拡大していた.DVT群の仰臥位のSV径(6.3±1.7 mm)も,非DVT群(5.2±1.8 mm)に比べ,有意(p<0.05)に拡大していた.一方,非DVT群と対照群の仰臥位および座位でのSV径には差を認めなかった.また,DVT群と非DVT群間においてDダイマー値,Body Mass Index,血圧,内服薬,基礎疾患,人工関節置換術の既往歴の有無,手術時間,術中出血量,手術からリハビリ開始までの時間には有意差を認めなかった.新規DVTの発症予測におけるROC曲線下面積は,仰臥位SV径(0.68),年齢(0.66)に比べ,座位SV径(0.76)が最大であった.
【考察】
DVT群のSV径は座位のみではなく,仰臥位の評価でも有意に拡大していることがわかった.DVT群では,下肢(ひらめ筋)の活動性が低下や膝窩静脈の弁機能不全の可能性が推測される.
【結論】
人工関節置換術後に新規DVTを発症した例の術前SV径は,座位のみではなく仰臥位でも拡大していた.一方,非DVT群における座位と仰臥位の術前SV径は健常人と同等であった.人工関節置換術後の新規DVTの発症予測には,座位及び仰臥位で評価したSV径が有用であることが示唆された.