Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

一般口演 甲状腺(JABTS)
症例

(S606)

甲状腺に発症したメトトレキサート関連リンパ増殖性疾患の一症例について

One case of methotrexate-associated lymphoproliferative disorders that developed in thyroid gland

宇治橋 善勝, 中西 久幸, 藤井 滋, 鈴木 政子, 工藤 令良, 柳原 美智子, 槙田 喜之, 棟方 伸一, 狩野 有作

Yoshikatsu UJIHASHI, Hisayuki NAKANISHI, Shigeru FUJII, Masako SUZUKI, Rera KUDOU, Michiko YANAGIHARA, Yoshiyuki MAKITA, Sinichi MUNEKATA, Yusaku KANOH

1北里大学病院臨床検査部, 2北里大学医学部臨床検査診断学

1Department of Clinical Laboratory, Kitasato University Hospital, 2Department of Laboratory Medicine, Kitasato University School of Medicine

キーワード :

【はじめに】
メトトレキサート(methotrexate:MTX)は,関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)の治療薬としてRAに対する薬物療法の中心的な役割を果たしている.他方,MTXの免疫抑制作用により,悪性リンパ腫を含めたメトトレキサート関連リンパ増殖性疾患(methotrexate associated lymphoproliferative disorders :MTX-LPD)を惹起することが報告されている.1991年のEllmanらによる報告後,MTX治療例の普及に伴い報告が増加し,現在ではRA治療ガイドラインにおいてMTXの重篤な副作用の1つとなっている.
今回,MTX使用中RA患者の甲状腺にMXT-LPDを発症し,その後自然退縮した1症例を経験したので本症例の超音波所見について報告する.
【症例】
60歳代,女性,2年前から近医内科にてRAの治療目的でMTXを内服していた.20××年7月頃より右頸部のひきつれと息苦しさを自覚し,近医での超音波検査(US)にて甲状腺腫瘤を指摘され,当院へ紹介受診となった.当院における初診時のUS所見では,甲状腺は全体的に腫大し両葉および峡部に限局的に形状不整な低エコー腫瘤やまだら状の低エコー域を認め,境界は明瞭かつ粗雑で一部で切れ込み像を示していた.両側頸部および甲状腺周囲リンパ節の腫脹も認められ,悪性リンパ腫が疑われた.血算および生化学検査には著変を認めず,TSH,FT3,FT4,TgAbなども基準範囲を示した.他方,sIL-2Rおよびサイログロブリンは高値を呈した.初診時の検査所見から慢性甲状腺炎,悪性リンパ腫などが疑われたが,RAの治療歴からMTX-LPDの可能性も否定できず,同日よりMTXを減量(2mg/W)し,さらに三週間後に中止し経過観察となった.穿刺吸引細胞診(FNAC),PET/CTによる精査を行い,経過観察後に寛解しなければ手術あるいは化学療法を行う方針となった.PET/CTでは甲状腺に腫瘤,FDG集積増加(SUVmax26.08)が認められ,悪性リンパ腫の疑いとなった.FNACでは橋本病との鑑別が困難な細胞所見であったが,核異型に乏しいものの悪性リンパ腫の可能性は完全には否定できなかった.MTX減量後,約3週間の経過観察で甲状腺腫は急激に改善を示し,3ヶ月後のUS所見では甲状腺は軽度の腫大を呈したが,初診時に認められた腫瘤像は消失していた.よって,MTX中止後の臨床経過および各種検査所見より,MTX-LPDと診断され,経過観察中の現在でも寛解を維持している.
【まとめ】
MTX投与中RA患者の甲状腺に発症したMTX-LPDのUS像は,一般的な甲状腺悪性リンパ腫と同様の「形状不整」「まだら状(虫喰い様)低エコー」や境界部の「切れ込み像」を示し,悪性リンパ腫を疑わすUS所見であった.しかし,甲状腺US所見で悪性リンパ腫を疑う所見を認めた場合には,MTX-LPDを念頭におきRA治療歴や本疾患の可能性も考慮したUSおよび所見の読影が重要と考えられた.また,MTX-LPDは「医原性免疫不全症関連リンパ増殖性疾患」の1つに分類されており,同様な病態はMTX以外の免疫抑制剤によっても惹起される場合があるので,注意を要すると考えられた.