Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

一般口演 甲状腺(JABTS)
症例

(S606)

エコー上乳頭癌との鑑別を要した咽頭食道憩室の一例

A case report of pharyngoesophageal diverticulum

大石 一行

Kazuyuki OISHI

高知医療センター乳腺甲状腺外科

Breast & Thyroid Surgery, Kochi Health Sciences Center

キーワード :

症例は63歳女性.2016年9月頸部違和感と圧痛を認めたため前医を受診し,エコーで甲状腺左葉に多発高エコーを伴う約2cm大の結節を指摘され,甲状腺癌が疑われた.10月精査目的に当科を受診し,エコーで左葉に24×32cm大の形状不整,境界不明瞭で内部エコーは点状高エコーが散在する低エコー腫瘤を認め,一見乳頭癌の所見で矛盾しなかったが,触診で腫瘤は軟らかく咽頭食道憩室を疑った.穿刺吸引細胞診では扁平上皮細胞を認め,穿刺針洗浄液アミラーゼ値は1776U/lと上昇していた.造影CT検査で甲状腺左葉に接してガスを含む憩室様構造があり造影効果は認めなかった.上部X線造影検査では左頸部に約3cm大の憩室を認め,嚥下後バリウムの貯留を確認することができた.上部消化管内視鏡検査で食道入口部直下の頚部食道左側に食物残渣の詰まった憩室を認め,咽頭食道憩室と最終診断した.診断後しばらく経過観察していたが,頸部違和感を訴えることが多く,外科的治療の方針とした.
咽頭食道憩室は消化管憩室症の中で比較的まれで,発生頻度は0.1%と報告されている.下咽頭収縮筋と輪状咽頭筋の間に存在するKillian間隙(Killian三角部)から圧出するZenker憩室と,輪状咽頭筋と食道縦走筋の間から圧出するKillian-Jamieson憩室に分けられるが,いずれも圧出性の仮性憩室である.診断は主に上部X線造影検査や頸部超音波検査で偶然発見されることが多いとされている.特に頸部超音波検査では甲状腺背面の腫瘤像として確認することができ,内部に多発高エコーを認めることから乳頭癌と誤認される可能性があり,嚥下による残渣物の移動や食道との連続性の確認が重要とされる.憩室は良性疾患で,自覚症状を呈することは少ないため一般的には経過観察することが多いが,違和感,嚥下困難,逆流,嘔吐,誤嚥,口臭,嗄声などの症状の他,憩室に起因する炎症,出血,穿孔を認める場合には外科的治療が必要となる.
今回比較的まれな咽頭食道憩室の一例を経験したため文献的考察を含めて報告する.