英文誌(2004-)
一般口演 産婦人科
胎児異常(頭頚部)
(S576)
脳梁欠損を合併し,胎動欠如を伴わなかったPena-Shokeir症候群Ⅰ型の1例
A case of the Pena-Shokeir syndrome type I without fetal movement lack which complicated with a corpus callosum agenesis
東 裕福, 松野 孝幸, 仲尾 岳大, 市川 剛, 千島 史尚, 川名 敬
Hiromitsu AZUMA, Takayuki MATSUNO, Takehiro NAKAO, Gou ICHIKAWA, Fumihisa CHISHIMA, Kei KAWANA
日本大学医学部産婦人科
Depertment of Obstetrics and Gynecology, Nihon University School of Medicine
キーワード :
【目的】
Pena-Shokeir症候群Ⅰ型は神経筋疾患の1つで,多発関節拘縮,特異顔貌,肺低形成を主徴とした稀な先天性疾患である.神経筋の機能障害のために胎動の欠如もしくは減少が生じるとともに,二次性のfetal akinesia deformation sequence(FADS)を発症する.肺低形成の程度が本疾患の予後を決定するとされる.出生前に先天脳梁欠損を指摘され,胎動の自覚および観察はされていたものの,生後にPena-Shokeir症候群Ⅰ型と判明した1例を報告する.
【対象】
27歳,未妊婦.自然妊娠され,近医で妊婦健診を受けていた.妊娠27週の妊婦健診で両側脳室拡大を指摘され,精査加療目的に当院を紹介された.胎児超音波スクリーニングでは,脳梁欠損以外の器質的異常や外表奇形は認めず,脳室拡大は脳梁欠損に伴うものと考えらえた.また母体骨盤部MRIによる胎児画像精査では脳梁欠損以外の内臓奇形は認めなかったが,胸郭がベル型であり,肺低形成および胸郭低形成が疑われた.児の厳重監視と母体の切迫早産徴候のため入院管理となったが,経過順調で,妊娠37週1日に帝王切開での分娩となった.児は男児で,出生体重2614g,Apgarスコア1点(1分値),1点(5分値),6点(10分値)の第2度新生児仮死であり,呼吸障害が強いために気管挿管の上でNICU収容となった.出生後の児の精査において,染色体異常を認めず,肺低形成,多発関節拘縮,小顎症を伴う特異顔貌がみられたことからPena-Shokeir症候群Ⅰ型の診断となった.肺低形成による遷延性肺高血圧症候群をみとめるものの,人工呼吸器管理下に存命中である.
【考察】
Pena-Shokeir症候群Ⅰ型は,特徴的な多発関節拘縮,肺低形成,特異顔貌の身体所見によって診断される.これらの症候は,胎生期の骨格筋運動障害(胎動の欠如),呼吸運動障害(肺低形成),嚥下運動障害の結果として生じる.本症例は,胎動を認めていたことから関節拘縮,肺低形成を発症しにくいと考えられたが,出生後の最終診断はPena-Shokeir症候群Ⅰ型であり,この点が稀な症例であると考えられた.また,脳梁欠損を合併していることも特異であったが,Pena-Shokeir症候群Ⅰ型との関連は不明である.
【結論】
神経筋系における先天奇形がある症例では,胎動の有無にかかわらず,本疾患を念頭におき,胎児超音波検査によって四肢関節,肺低形成の評価を厳重に行っていくことが周産期管理において重要であると考えられる.