Online Journal
電子ジャーナル
IF値: 1.878(2021年)→1.8(2022年)

英文誌(2004-)

Journal of Medical Ultrasonics

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2017 - Vol.44

Vol.44 No.Supplement

一般口演 産婦人科
胎児異常(心臓)・心機能

(S570)

位相差トラッキング法による胎児輸血前後の胎児脈圧の評価

Evaluation of fetal circulatory during introduction of fetal transfusion by the phased-tracking method

小堀 周作, 永岡 晋一, 室本 仁, 室月 淳, 長谷川 英之, 金井 浩, 八重樫 伸生

Shuusaku KOBORI, Shinichi NAGAOKA, Jin MUROMOTO, Jun MUROTSUKI, Hideyuki HASEGAWA, Hiroshi KANAI, Nobuo YAEGASHI

1宮城県立こども病院産科, 2東北大学大学院医学系研究科先進成育医学講座, 3富山大学工学部工学部知能情報工学科, 4東北大学大学院工学研究科電子工学専攻, 5東北大学産婦人科

1Obstetrics, Miyagi Children’s Hospital, 2Graduate School of Medicine, Tohoku University Graduate School, 3Faculty of Engineering, Toyama University, 4Graduate School of Engineering, Tohoku University Graduate School, 5Obstetrics and Gynecology, Touhoku University

キーワード :

【目的】
われわれは関心点の変位を高精度に観測できる位相差トラッキング法を応用して,非侵襲的にヒト胎児大血管の脈波伝播速度の計測や脈圧の推定する方法を確立してきた.今回はその臨床応用として,著明な胎児貧血を示した3例について,胎児輸血(計7回)の前後での脈波伝播速度および推定脈圧値がどのように変動するかを明らかにした.
【対象・方法】
血液型不適合妊娠による胎児貧血1例とヒトパルボウィルスB19感染によるもの2例を対象とした.対照群として同意の得られた正常胎児100例を計測し脈波伝播速度および脈圧推定値の基準値(95パーセント信頼区間)を作成した.位相差トラッキング法を用いて胎児下行大動脈の横隔膜レベルの血管壁の運動速度を2点で計測して脈波伝播速度を求めた.同時に超音波ドプラ法によりおなじ場所における血流速度を測定した.この両者を流体運動方程式であるWater-hammer式(Δp=ρ・U・PWV ρ:血流密度,U:血流速度,PWV:脈波伝播速度)に両者を代入し,胎児下行大動脈における脈圧値を算出した.
【結果】
正常胎児100例中82例で脈波伝播速度の測定が可能であり,脈波伝播速度(PWV)と脈圧(PP)値は妊娠週数(GW)とともに有意な増加を認めた(PWV=0.115×GW-0.421,r=0.70,p<0.01; PP=0.814×GW-11.371,r=0.74,p<0.01).対象となった胎児貧血3例のうち,血液不適合妊娠では妊娠初期より抗D抗体価が上昇(最高4096倍)し,妊娠20週から28週までの5回の輸血により生児を得ることができた.パルボウイルス感染による2例はいずれも最終的に子宮内胎児死亡となった.これらの3例すべてに中大脳動脈収縮期血流速度の大幅な上昇を認めた.生児を得た血液型不適合妊娠では,胎児輸血のたびに脈圧推定値の軽度の低下を認めた.しかし全般的な胎児脈圧は急激な変化を経ることなく,基準値より軽度の高値で比較的安定して推移していた.一方,子宮内胎児死亡となった胎児貧血2症例のうち,1例では胎児死亡になる前に基準値を大幅に超える脈圧推定値の上昇を認めており,もう1例では逆に胎児輸血には反応せず基準値よりかなり低い脈圧値で胎児死亡にいたった.
【考察・結論】
一般に貧血が進行すると,胎児は一回心拍出量や心拍数を増加させ高心拍出量状態によって代償しようするが,とくに一回心拍出量は脈圧値と高い相関があるといわれている.すなわち胎児貧血でありながら循環動態によって充分代償している状態や,胎児輸血直後の一過性に心負荷が増した状態では,胎児脈圧が通常より増加していると推定される.今回の5回の胎児輸血によって妊娠を維持し救命できた1例では,計測された脈圧値はまさにそのとおりの結果を示しており,胎児貧血の状態にありながら高心拍出により循環動態を維持していたこと,胎児輸血のたびに一過性の脈圧値の増加があったことが示された.一方,予後不良の2例においてはそのような循環動態による代償はおこっておらず,一例は高度の貧血のために高拍出性心不全に陥り,もう一例においてはおそらくウイルスに起因すると心筋障害によって輸血に反応せずに胎児死亡にいたったことが推定された.今回の臨床的検討において胎児貧血や胎児輸血による脈圧の変動がはじめてあきらかになった.既存の超音波指標である中大脳動脈最高速度は胎児貧血のスクリーニングに診断に有用であるが,われわれの位相差トラッキング法による脈圧測定による評価は,胎児の病態解明と予後の予測についてきわめて有用であることが示唆された.今後は胎児のさまざまな病態にたいする臨床評価を進めたい.