芦田 沙矢香, 春名 めぐみ, 坂巻 健, 後藤 美希, 小林 浩一

Sayaka ASHIDA, Megumi HARUNA, Ken SAKAMAKI, Miki GOTO, Koichi KOBAYASHI

¹東京大学大学院母性看護学・助産学分野, ²東京山手メディカルセンター産婦人科

¹Department of Midwifery and Women's Health, The University of Tokyo, ²Obstetrics and Gynecology, JCHO Tokyo Yamate Medical Center

キーワード :

【目的】
高齢妊婦の分娩が遷延する要因に軟産道強靭が挙げられる．これは，加齢に伴う結合組織の硬化と萎縮により軟産道の弾力性と伸展性が低下するためと解釈されているが，軟産道を形成する筋肉は直接評価されていない．一方，軟産道の一部である挙筋裂孔（LH）は近年分娩方法や分娩時間との関連が報告されている．そこで，本研究は，高齢妊婦に起こると言われている軟産道強靭が肛門挙筋に起きているかを確認するため，妊娠末期のLHと年齢との関連を明らかにすることを目的とする．
【対象と方法】
研究デザインは横断観察研究で，2016年2月から2016年11月に都内1施設の産婦人科外来にて実施した．研究参加者の包含基準は，調査施設で分娩予定の妊婦とし，除外基準は未成年者，日本語でのコミュニケーションが難しい者，既往歴や患者背景から研究参加が難しいと判断された者とした．179名に研究参加リクルートをし，研究同意が得られた141名のうち，初産婦74名を本研究の分析対象とした．
調査変数は，診療録より身長，体重（非妊時，調査時，分娩時），年齢などの基本属性を収集した．さらに経会陰3D超音波により安静時，収縮時，怒責時に測定し，LHの前後径，左右径，周囲径，面積を計測した．測定機器には，GE社Volson iと経腹用プローブRAB4-8-RSを使用した．測定は妊娠36週以降の妊婦健診の内診に引き続き測定した．
統計分析方法は，LHの安静時，収縮時，怒責時の前後径，左右径，周囲径，面積のそれぞれの差と年齢との関連を明らかにするためピアソンの相関分析を実施した．全ての解析には，統計解析ソフトIBM SPSS（ver.24.0）を使用し，有意確率は両側5％未満とした．本研究は，東京大学医学部倫理委員会と調査施設の倫理委員会の承認を得て実施した．
【結果と考察】
参加者の年齢は30.6±4.5（平均±標準偏差）歳，身長158.7±6.5 cm，調査時体重65.1±9.0 kgであった．年齢と相関があった変数は，
怒責時前後径r=-0.262（p=0.034），
怒責時左右径r=-0.318（p=0.009），
怒責時周囲径r=-0.323（p=0.008），
怒責時面積r=-0.357（p=0.003），
怒責時左右径と安静時左右径の差r=-0.260（p=0.037），怒責時周囲径と安静時周囲径の差r=-0.251（p=0.043），怒責時面積と安静時面積の差r=-0.290（p=0.019），怒責時前後径と収縮時前後径の差r=-0.249（p=0.045），怒責時左右径と収縮時左右径の差r=-0.287（p=0.021），怒責時周囲径と収縮時周囲径の差r=-0.312（p=0.011），怒責時面積と収縮時面積の差r=-0.322（p=0.009）
LHと年齢には弱～中程度の負の相関があることが明らかになった．骨盤底障害をもつ平均年齢55歳の女性を対象とした先行研究によると，LHと年齢に負の相関があると報告している（Weemhoff, 2010）．本研究結果により妊娠女性においてもLHと年齢との関連が明らかになった．軟産道強靭が肛門挙筋に起きるというエビデンスの一助になったと考える．今後は，分娩に一番影響しているLHの部位の詳細な検討が必要であると考える．
【結語】
本研究は，妊娠末期の初産婦のLHと年齢との関連を明らかにすることを目的とし，LHの怒責時前後径，怒責時左右径，怒責時周囲径，怒責時面積，怒責時左右径と安静時左右径の差，怒責時周囲径と安静時周囲径の差，怒責時面積と安静時面積の差，怒責時前後径と収縮時前後径の差，怒責時左右径と収縮時左右径の差，怒責時周囲径と収縮時周囲径の差，怒責時面積と収縮時面積の差と年齢に負の相関があることを明らかにした．